近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 9
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大腿骨頚部骨折術後に出現した階段昇段時痛の解釈と運動療法
-股関節内転、内旋可動域に着目した一症例-
*林 晃生小野 志操細見 ゆい大坂 芳明
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抄録

【はじめに】大腿骨頚部内側骨折は高齢者に多い骨折であり、一般に人工骨頭置換術が選択されることが多い。しかし、Garden分類 stage_I_や_II_などの非転位型骨折では、骨接合術が選択されることも少なくない。今回、大腿骨頚部内側骨折後にHannson pinによる骨接合術が施行されたのち、階段昇段時に大腿後外側痛が出現した症例を経験した。階段昇段時痛に対し、受傷と術侵襲を考慮して、機能解剖に基づいた運動療法を施行した。経過と結果に若干の考察を加え報告する。 【症例紹介】症例は60歳代の女性である。階段を降段中に転落して受傷した。その後、起立困難となったため受診した。画像所見より左大腿骨頚部骨折Garden分類 stage_II_と診断され、手術を目的に入院となった。受傷後4日目にHannson pinを用いた骨接合術が施行された。術後1日目より理学療法が開始となった。荷重制限はなかった。 【説明と同意】発表にあたって、本症例に対し発表の目的と意義について十分に説明し、同意を得た。 【理学療法初診時所見と運動療法】左大腿周囲に腫脹と熱感が見られた。圧痛は大腿筋膜張筋、中殿筋、腸腰筋、長内転筋、恥骨筋、外側広筋に認めた。左股関節の関節可動域(以下ROMと略す)は屈曲85°、伸展-10°、外転10°、内転0°、内旋15°であった。左膝関節のROMは屈曲120°、伸展0°であった。徒手筋力測定(以下MMTと略す)は、左股関節屈曲と外転は2であり、SLRは困難であった。運動療法として、_丸1_アイシング、_丸2_術創部の癒着予防、_丸3_圧痛が認められた筋に対してリラクゼーションを行い、股関節と膝関節のROM訓練を実施した。術後5日目より立位訓練、術後7日目より歩行訓練を開始した。 【経過および結果】疼痛なく独歩が可能となったため、術後24日目に退院となった。外来にて週2~3回の頻度で運動療法を継続した。独歩や階段昇降は可能であったが、階段昇段時にNRS2~3程度の左大腿後外側部痛は残存していた。そのため、再評価を行った。圧痛は大腿二頭筋短頭、大殿筋上部線維、中殿筋後部線維、梨状筋に認めた。股関節ROM(以下、健側/患側と表記する)は、股関節内旋は40°/35°、股関節伸展位での内旋は45°/35°であり、股関節90°屈曲位での内転は25°/15°と制限がみられた。昇段動作は股関節外転、外旋位で左下肢を支持し、骨盤の右回旋と体幹の左側屈が見られた。これらの所見より、以下の治療内容に変更した。(1)大殿筋、中殿筋後部線維、梨状筋のリラクゼーションとストレッチ、(2)大腿二頭筋のリラクゼーション、(3)背臥位で股関節伸展、外転、外旋位から股関節屈曲、内転、内旋の自動介助運動、(4)股関節内転、内旋位での昇段動作練習を実施した。その結果、左股関節ROMは内旋40°、伸展位での内旋50°、屈曲位で内転25°となった。MMTは屈曲が4、外転が4となった。昇段動作時痛は消失し、上肢支持なく昇段動作が可能となった。 【考察】本症例は、受傷による関節内圧の上昇、炎症による関節周囲の癒着によって関節包の浅層に存在する梨状筋などの外旋筋や停止部では梨状筋とほぼ同様の走行をしている中殿筋後部線維に攣縮、癒着が生じたと考えられた。そのため、梨状筋と中殿筋後部線維の炎症による癒着や関節内圧の上昇と疼痛による筋攣縮により股関節の内転と内旋にROM制限が生じたと考えられた。本症例の健側での階段昇段動作は股関節内転、内旋位での下肢振り出しであったが、患側では股関節外転、外旋位での振り出しとなっており、その状態から荷重支持を行うことで、大殿筋と大腿二頭筋に過剰な努力性の収縮が強いられる動作となっていたと考えられた。この努力性の筋収縮の反復動作が、大腿二頭筋に筋攣縮を生じさせ、大腿後外側部痛の惹起につながっていたと推察した。そこで、梨状筋と中殿筋後部線維の筋攣縮の除去と、柔軟性の改善を図った。その結果、股関節内転と内旋のROM改善が得られ、健側と同様の昇段動作が可能となった。それに伴い、大殿筋や大腿二頭筋に認められていた圧痛と、階段昇段時にみられた大腿後外側部痛が消失したと考えられた。理学療法を行っていく上で、動作時に出現する疼痛の解釈に難渋することは少なくない。本症例を通して拘縮治療の重要性を改めて認識することができた。

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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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