近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 103
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重症虚血性心疾患に対し下腿を中心としたアプローチで虚血所見の改善が見られた一例
*神谷 訓康出口 広介
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キーワード: 虚血性心疾患, 高齢, 歩行
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抄録
【背景】虚血性心疾患患者に対する急性期の理学療法では、運動強度について座位や歩行を段階的に設定したプログラムが実施される。しかし、運動負荷によって心筋虚血所見が生じた場合、プログラムは停滞する。そして、経皮的冠動脈形成術(PCI)や服薬調整をしても虚血所見が改善しない場合、退院後の生活に活動制限が必要となる。今回、100m歩行負荷で虚血症状が出現し、プログラム進行に難渋する症例を経験した。下腿筋の筋力強化やストレッチの導入を経て、虚血所見の改善を認め、ほぼ入院前の活動レベルである300m連続歩行が可能となったため報告する。 【症例】80歳代前半の男性。入院前のADLはBarthel Indexで100点。屋外移動に杖を使用。既往歴は糖尿病、陳旧性心筋梗塞、糖尿病性網膜症、腰椎椎間板ヘルニア。虚血性心疾患について、50歳代後半で初めて下壁の心筋梗塞を発症。60歳代後半でCABG(LITA-LAD、GEA-4PD、SVG-LCX)施行。その後も複数回、不安定狭心症で入院。現病歴は入院1週間前から安静時胸部圧迫感にて発症。徐々に症状が増悪。硝酸薬舌下にて症状が改善しなくなり、当院受診。CAGにて#1 100%、#7 100%、#13 90%、GEAは全体的に狭窄。責任病変はSVGのproximal寄りの99%狭窄と考えられ、同部位にPCIを施行。PCI後、循環動態が不安定となり、IABPとカテコラミンのサポートを要した。 【説明と同意】リハビリテーションを実施するにあたり、対象者とその家族に書面にて説明し、同意を得た。また、学会報告を行う事に同意を得た。 【経過】IABPとカテコラミンのサポートから離脱し、第4病日から理学療法を開始。端座位保持訓練を実施。第5病日から下肢筋のストレッチ、軽負荷の筋力強化訓練、歩行訓練を実施。第7病日と第8病日に100m歩行負荷を実施。V5-6でST低下を認め、硝酸剤舌下投与で改善。心筋虚血の責任病変は、SVGの狭搾によるものと考えられた。しかし、PCIによる処置は実施困難と考えられ、降圧薬の増量を中心とした服薬調整で保存的加療をする方針となった。筋力はMMTで腓腹筋が右2+、左5、その他の下肢筋は概ね4~5レベル。歩容の特徴として右立脚期の短縮あり。歩行後に右下腿部の鈍重感あり。第9病日以降、安静度は病室内のみの歩行とし、経過観察となった。そこで、理学療法では50m以上の歩行訓練を中止。ストレッチと筋力強化訓練の実施回数を増やした。特に腓腹筋のストレッチと踵上げは、1セット行っていたものを3セットに増やした。第12病日および14病日に50m歩行負荷試験を実施し、いずれもV4-5にST低下あり。第20病日、虚血閾値の明確化を目的として心肺運動負荷試験を施行。Peak VO2は2.71METsであり、運動中にST変化なし。第14病日から第20病日にかけてβ遮断薬を25mgから37.5mgに、ACE阻害薬を2mgから4mgに変更。第22病日、6分間歩行を施行。歩行距離は230mであり、歩行後にST変化なし。歩容は第7病日や第8病日よりも立脚相に左右差なし。歩行後の右下腿部の鈍重感は軽度。腓腹筋を含めた下肢筋の筋力はMMTで第8病日と不変。第29病日、自宅退院。退院に当たり、外出には車椅子を使用する事を指導し、階段昇降の実施は禁止した。 【考察】本症例は有意残存狭窄によって歩行負荷後に心筋虚血所見が出現していたが、下腿のコンディショニングと服薬調整によって虚血所見の改善が得られた。虚血所見が重度であり、改善までの期間が短かったことより、薬剤のみでの効果で虚血が改善したとは考えにくい。従って、下腿筋へのアプローチが虚血改善に寄与した可能性があると思われる。その機序はまず、右立脚期の短縮に改善がみられ、歩行後の疼痛が改善していたことより、MMTには反映されない範囲の筋力向上もしくは筋緊張の低下があった。そして、筋のコンディショニングによって酸素取り込み能が改善した。また、歩容の改善によって下肢筋の仕事量が相対的に減少した。このようにして心筋仕事量を減らした為、虚血所見が改善したと考えられる。本症例は既往歴に腰椎椎間板ヘルニアを有し、入院前から下位運動ニューロン障害を有していた可能性は高い。そして、入院後の数日間の臥床が筋力低下および過度の筋緊張亢進を助長し、心筋虚血所見を出現しやすくしたのであろう。すなわち本症例は、プログラムの進行に当たって、特に下腿のコンディショニングの重要性が高かったと考えられる。 【理学療法学研究としての意義】心疾患に対する理学療法では、過負荷に注意する必要がある。過負荷にしない方法論の1つは適切な活動制限を設けることである。しかし、歩行状態や既往歴から心機能以外の機能障害も把握し、身体活動の相対的負荷を減じることも方法論として考慮する必要がある。
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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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