抄録
【目的】
変形性股関節症患者の臨床症状には主としての股関節痛以外に腰痛を呈する事がある。過去に人工股関節全置換術(以下THA)後に術前の腰痛が緩和されたという報告は散見されるが、腰痛を有する症例の割合、また骨盤傾斜や腰椎変形との関連についての報告は少ない。今回の研究の目的は、_丸1_変形性股関節症患者でTHAを予定している患者の中で腰痛を有する症例の割合を算出すること、_丸2_また腰痛が骨盤傾斜と腰椎変形に関与するかを明らかにする目的で、腰痛の有無で2群に分け、その2群において骨盤傾斜の値及び腰椎変形の頻度に差があるかどうかを検討することである。
【方法】
平成21年1月から平成22年6月までの間に、変形性股関節症患者でTHAを予定した患者218名の中から一人の整形外科医が経過観察をした205名、210股(男性21股、女性189股)を対象とした。平均年齢は63.4歳(32-84歳)であった。初診時に腰痛を有する症例の割合を算出し、腰痛の有無で2群に分け以下の項目において有意差があるかを検討した。検討項目は、腰椎変形の有無(腰椎変性・腰椎すべり)、単純X線立位正面像を用いた骨盤水平傾斜及び前後傾斜であった。骨盤水平傾斜は、水平線と涙痕間線とのなす角度を求めた。骨盤前後傾斜は、恥骨結合上縁から下ろした垂線の値、ならびに前後像と両仙腸関節下縁を結ぶ線に平行な骨盤腔の最大横径の比とした。
【説明と同意】
本研究は、独立行政法人労働者福祉機構関西労災病院の倫理委員会にて承認された。
【結果】
腰痛無群は156例(75%)、腰痛有群は52例(25%)であった。この2群において腰椎変形を有する割合に有意な差を認めなかった。
単純X線立位正面像における骨盤水平傾斜角度は、腰痛無群では平均2.9°(SD: 2.6°)、腰痛有群では平均4.1°(標準偏差(以下SD):3.7°)であり、腰痛有群で有意に傾斜角度が大きかった(マンホイットニーU検定:p=0.045)。骨盤前後傾斜の比は、腰痛無群で平均0.49、腰痛有群で平均0.48となり、両群間で有意な差は認められなかった(マンホイットニーU検定:p=0.906)。
【考察】
本研究では変形性股関節症患者は、腰椎疾患の有無に関わらず腰痛を認めることがわかった。またその割合は約20%であった。術前THA患者で腰痛を有する症例はParviziらによると344症例のうち約50%、森本らよると45症例のうち約60%であると報告しており、先行研究よりも少ない割合であった。
腰椎疾患の有無と腰痛の出現に関しては、腰痛有群の52例のうち腰椎疾患が疑われる症例は28例であり、腰椎疾患が認められずに腰痛を有する症例が24例存在した。これは腰椎・股関節の隣接した関節間に障害が発生し、関節及びその周囲組織が不可逆的に変化したことにより生じた股関節由来の腰痛であると考えられる。
骨盤の前後傾斜に関しては、臼蓋形成不全に由来する股関節症により股関節屈曲拘縮から骨盤が前傾し、その結果、代償的に腰椎前弯が増強するため腰椎症が発生するということが言われている。しかし、本研究では骨盤前後傾斜と腰痛の有無に関しては、有意な差は見られなかった。一方骨盤水平傾斜に関しては、腰痛有群で有意に骨盤傾斜角度が大きかった。骨盤水平傾斜と腰痛との関連については過去にあまり論じられていないが、骨盤前後傾斜より水平傾斜が大きい方が腰椎アライメントへの負荷が大きくなり、その結果腰痛症状が惹起されたのではないかと考えられる。
本研究の結果から腰痛の有無と骨盤水平傾斜には関連性が認められた。さらなる検討を行うために、今後はTHA前後の腰痛症状の詳細な記録(VAS等)や計測器を用いたダイナミックな骨盤傾斜の変化の評価等を行っていく必要があるとのではないかと考える。
【理学療法研究としての意義】
今回の研究により、腰痛の有群と骨盤水平傾斜の関連が高いことが示唆された。また当院での一定期間の変形性股関節症患者の中で腰痛症状を呈するものがいることがわかり、今後は腰痛の有無などで理学療法のアプローチの調節などをおこなっていく必要があると考える。