近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 16
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立位での一側下肢への側方体重移動における移動側中殿筋の筋活動について
COP移動側変位初期に着目して
*田口 綾香河原 香井上 隆文中道 哲朗鈴木 俊明
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抄録
【目的】
 臨床において、トレンデレンブルグ現象など、股関節外転筋の筋力低下を有する症例に対し、我々は立位での一側下肢への側方体重移動練習を頻繁に用いている。このとき、側方体重移動の駆動方法の違いが移動側股関節外転筋、なかでも中殿筋の筋活動を変化させることを経験する。そこで今回、一側下肢への側方体重移動の駆動方法の違いが移動側中殿筋の筋活動に与える影響を、足底圧中心位置(以下COP)と筋電図にて検討した。
【方法】
 対象は整形外科学的・神経学的に問題のない健常者10名(平均年齢24.3歳±2.5歳)の利き脚10肢とした。まず被験者の両下肢を重心計のプレート上に置き、立位姿勢をとらせた。運動課題は立位姿勢を開始肢位として、音刺激の合図によって1秒間で利き脚側(以下移動側)へ側方体重移動を行うこととした。運動課題は、非移動側股関節外転により側方体重移動を行う課題(以下課題1)と非移動側足関節底屈により床面を蹴って側方体重移動を行う課題(以下課題2)の2通りを実施した。両課題において、側方体重移動に伴い、非移動側の踵を床面から離し、膝・股関節を軽度屈曲させた。運動規定として、課題遂行中、視線は前方を注視させ、両肩峰と骨盤は水平位に保持し、骨盤の前後傾や体幹・骨盤の回旋が起こらないようにした。側方移動距離は、規定内で各被験者が最大に移動できる距離とした。測定回数は各運動課題を各被験者につき3施行測定した。測定項目は側方体重移動中のCOPと、移動側・非移動側中殿筋、非移動側腓腹筋の筋電図波形を記録した。電極位置は、中殿筋は腸骨稜と大転子を結ぶ線の近位1/3、腓腹筋は筋腹中央に、それぞれ2cmの電極間距離にて配置した。分析方法は両課題におけるCOP軌跡の時間的変化とそれに伴う導出筋の筋活動パターンを分析した。
【説明と同意】
 各被験者には本研究の目的と内容について説明を行い、同意を得た後に測定を行った。
【結果】
 COPは両課題共に、立位姿勢から側方体重移動の開始に伴い移動側へ変位した。この時、両課題間において、COP軌跡が異なるパターンを示した。課題1では、課題遂行中のCOPが一定の速度で移動側に変位するのに対し、課題2では、COPの変位開始直後に急速に移動側に変位し、その後は変位速度が低下する傾向がみられた。筋電図について、課題1における非移動側中殿筋は、COP移動側変位の開始直前に活動し、移動側中殿筋は、COP移動側変位の開始にやや遅れて活動した。また、非移動側腓腹筋の筋活動は認められなかった。一方、課題2において、非移動側腓腹筋はCOP移動側変位の開始直前に活動し、移動側中殿筋はCOP移動側変位の開始と同時に活動した。また、課題2において非移動側中殿筋の筋活動は認められなかった。
【考察】
 課題1では、移動側への側方体重移動を行う駆動力として非移動側股関節外転を用いている。この時、非移動側中殿筋は、その主動作筋として関与したためCOP移動側変位の開始直前から活動したと考えられる。また、本課題における移動側中殿筋は、移動側への荷重に伴い増加する移動側股関節内転を制動する目的でCOP移動側変位の開始にやや遅れて活動したと考えられる。次に課題2では、移動側への側方体重移動を行う駆動力として非移動側腓腹筋の筋活動による足関節底屈を用いている。このため、非移動側腓腹筋はCOP移動側変位の開始直前から活動したと考えられる。課題2において、移動側中殿筋はCOP移動側変位の開始と同時に活動した。課題2では、側方体重移動の駆動を非移動側足関節底屈により行うため、側方体重移動の初動が課題1よりも速まると考えられる。これに伴い、COP移動側変位開始時における移動側股関節内転が課題1に比してより瞬発的に生じるため、移動側中殿筋はCOP移動側変位の開始と同時に活動したと考えられる。
【理学療法研究としての意義】
 本研究結果より、移動側中殿筋の筋活動は、非移動側股関節外転により駆動する側方体重移動では、COP移動側変位開始にやや遅れて活動し、非移動側足関節底屈により駆動する側方体重移動では、COP移動側変位開始と同時に活動することが示唆された。このことから臨床において、中殿筋の筋活動パターンが問題となる症例に対し側方体重移動練習を実施する際には、側方体重移動の駆動方法を選択して実施することが有用であると考えられる。
著者関連情報
© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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