近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 19
会議情報

頸部角度の違いによる嚥下筋・頸部筋の筋活動について
表面筋電図による嚥下持続時間と筋積分値の検討
*乾 亮介森 清子中島 敏貴西守 隆田平 一行
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】
摂食・嚥下機能障害患者に対してのリハビリテーションにおいて理学療法は一般的に嚥下に関わる舌骨上筋群の強化や姿勢管理などを担当する。嚥下筋は頸部の角度や脊柱を介して姿勢アライメント等から影響を受けることが指摘されており、頸部のポジショニングにおいていわゆる顎引き姿勢(chin-down)や頸部回旋による誤嚥予防や嚥下量の増大などの口腔咽頭の解剖学的変化による有効性については緒家らの報告がある。しかしいずれも体位や、嚥下する物性を変えた研究が殆どであり、頸部角度に注目した報告は少ない。そこで今回は頸部角度の違いが嚥下時の舌骨上下筋群及び頸部筋の筋活動に与える影響について検討した。
【方法】
対象者は口腔・咽頭系及び顎の形態と機能に問題がなく、頚椎疾患を有さない健常男性5名(年齢29.8±4.4歳)とした。被験者の口腔にシリンジにて5ccの水を注いだ後、端座位姿勢で頸部正中位、屈曲40°、屈曲20°、伸展20°、伸展40°の各姿勢で検者の合図で水嚥下を指示した。この時飲み込むタイミングは被験者に任せ、検者は被験者の嚥下に伴う喉頭隆起の移動が終了したことを確認し、測定を終了した。
また嚥下後に嚥下困難感をRating Scale(0=difficult to swallow 10=easy to swallow)で評価した。表面筋電図は嚥下筋として舌骨上筋、舌骨下筋を、頸部筋として胸鎖乳突筋で記録した。記録電極はメッツ社製ブルーセンサーを電極幅20mmで各筋に貼付し使用した。 筋電計はノラクソン社製Myosystem1200を用い、A/Dコンバータを介してサンプリング周期1msにてパーソナルコンピューターにデータ信号を取り込んだ。取り込んだ信号はソフトウェア(Myo Research XP Master Edition1.07.25)にて全波整流したのちLow-passフィルター(5Hz)処理を行い、その基線の平均振幅+2SD以上になった波形の最初の点を筋活動開始点、最後の点を筋活動終了点とし、嚥下時の各筋のタイミング及び筋活動持続時間(以下持続時間)と筋積分値を求めた。
解析方法は持続時間と筋積分値の頸部位置における比較は反復測定分散分析を用い、多重比較はTukey-Kramer法を用いた。またRating Scaleと頸部位置における関係についてはFriedmanの検定を用い、有意水準はいずれも5%未満とした。
【説明と同意】
全ての被験者に対して研究依頼を書面にて行い、本人より同意書を得た後に実施した。
【結果】
舌骨上筋では屈曲40°、20°、と比較して伸展40°で有意に持続時間、筋積分値は高値を示したが(p<0.05)、が舌骨下筋、胸鎖乳突筋では有意差を認めなかった。またRating Scaleにおいては頸部角度により有意差(p<0.05)を認め、頸部が伸展位になるほど嚥下困難感が増強する傾向がみられた。
【考察】
嚥下における表面筋電図測定については各筋の持続時間が評価の指標として有用であるとVimanらが報告しており、加齢とともに嚥下時の持続時間は延長するとしている。またSakumaらの報告では嚥下時の舌骨上筋と舌骨下筋の持続時間と嚥下困難感(Rating Scale)には有意な負の相関があると報告しており、嚥下筋の持続時間の延長は嚥下困難の指標になると考えられている。従来、頸部伸展位は咽頭と気管が直線になり解剖学的位置関係により誤嚥しやすくなると言われており嚥下には不利とされてきた。今回は筋活動において伸展40°で持続時間の延長を認め、自覚的にも嚥下が困難であった。また筋積分値においても有意に高値であったことは努力性の嚥下になっていることが考えられ、頸部伸展位は筋活動の点からも嚥下に不利であることが示唆された。このことより、摂食・嚥下機能障害患者に対して頸部屈曲・伸展の可動域評価及び介入が有用であると考えられた。
【理学療法研究としての意義】
頸部の屈曲・伸展の位置により嚥下時の筋活動は影響を受けることから摂食・嚥下機能障害のある患者において 頸部可動域評価及び介入の有用性が示唆された。

著者関連情報
© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
前の記事 次の記事
feedback
Top