近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 20
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目の錯覚により動作は変わるのか
*小栢 進也岩田 晃淵岡 聡
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キーワード: 錯覚, 跨ぎ動作, 視覚
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抄録

【目的】人が周囲環境に合わせて動作を行うには、視覚情報が重要であるとされている。しかし、視覚情報は周囲の明るさ、対象物の色、模様などに影響を受け、対象物が実際の大きさよりも小さくまたは大きく見えることがある。このような目の錯覚によって身体運動が変化するかどうかは明らかではない。身体運動が錯覚に惑わされるのであれば、生活環境整備の際に考慮すべき要素となる。よって本研究では高さは同じだが、見た目の高さが異なる障害物を跨ぐ動作で、錯覚の影響を受けるのかを検討した。 【方法】対象は下肢に障害を有さない健常成人22名とした。測定には動作分析装置VICON(Oxford medics製)を用いた。被験者は裸足となり、両側のつま先(第二中足骨頭)、踵(踵骨隆起上端)にマーカーを張り付けた。障害物は高さ20cm、横幅40cm、奥行5cmとし、側面と上面は縦ストライプまたは横ストライプの2種類の模様を用意した。ストライプ幅は2.3cmとし、黒白を等間隔に配列した。なお、被験者には事前に障害物の模様は変わるが高さが同じであることを伝えた。被験者は障害物5m手前から歩行を始め、右足から障害物を跨ぐように指示した。縦ストライプ、横ストライプの測定順序はランダムとした。解析項目は障害物前縁を超える際のつま先高さ(前縁つま先高)、障害物後縁を超える際の踵高さ(後縁踵高)、踏切前の左足つま先から障害物までの距離(踏切前距離)とした。なお、右足で障害物を跨げなかった、または障害物直前で歩幅を大きく変えた場合には再測定とした。さらに、踏切前距離が50cmを超えた試行は障害物に足を合わせられなかったと判断し、それ以降の解析から除外した。統計は縦ストライプ条件と横ストライプ条件の足部位置を比較するために、対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。 【説明と同意】被験者には実験の内容を説明し、書面で同意を得た。 【結果】全被験者のうち1名の踏切前距離が50cmを超えていたため、解析は残りの21名(男性10名、女性11名、年齢21.2±1.5歳)で行った。右足の前縁つま先高は縦ストライプ35.1±2.9cm、横ストライプ34.9±2.6cm、右足の後縁踵高は縦ストライプ33.3±3.8cm、横ストライプ33.6±4.5cmとどちらも有意差を認めなかった。一方、左足の前縁つま先高は縦ストライプ36.6±5.3cm、横ストライプ35.3±5.0cm、左足の後縁踵高は縦ストライプ52.4±5.6cm、横ストライプ50.3±5.6cmと両項目とも縦ストライプ条件で有意に高い値を示した。一方、踏切前距離は27.4±8.8cm、横ストライプ26.1±9.0cmで有意差を認めなかった。 【考察】本研究での縦および横ストライプは、ヘルムホルツの図形と言われ、縦に線が入った図形は縦長に、横に線が入った図形は横長に見えるとされている。本研究の結果より、障害物を跨ぐ際の足の高さの差は左足で認められ、目の錯覚と同様に縦ストライプ条件で横ストライプ条件よりも高くなった。障害物の高さが同じであると認識しているにもかかわらず、後から跨ぐ足は目の錯覚の影響を受けることがわかった。先行研究より、錯覚によって対象物の大きさを誤認識していても、視覚情報(目標物と身体の位置関係)をフィードバックすることで動作を修正し、環境に適した運動を遂行することができるとされている。本研究でも先に跨ぐ右足では視覚で確認できるのに対し、後から跨ぐ左足では身体と障害物との位置関係がフィードバックできないために、錯覚の影響を受けたことが考えられる。 【理学療法研究としての意義】ヒトの運動は目の錯覚の影響を受けることが明らかとなった。転倒と障害物跨ぎの関係を検討している研究では、前の足が引っ掛かることを前提としていること多いが、むしろ後ろの足が外部環境に作用されて引っ掛かる可能性があり、注目すべき点であると考える。引っ掛かりやすい段差、特に後から跨ぐ足が引っ掛かる場合には形状や色、明るさなど住環境整備を検討する必要がある。

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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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