近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 18
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歩行開始の準備過程およびその運動イメージとの関連性に関する随伴性陰性変動を用いた研究
*植谷 欣也川又 敏男山本 昌樹
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抄録

【目的】  歩行時の脳活動は空間的側面での研究が多く、歩行の運動イメージでも実際の歩行時と類似した部位が活動することが示されている。一方、時間的側面においては歩行の準備過程に関する研究は少なく、歩行の運動イメージを検討した報告は見当たらない。本研究では、歩行の運動イメージや観察をリハビリテーション介入に用いる根拠を明確にするため、時間分解能の高い脳電図を用いて歩行の準備過程およびその運動イメージを時間的側面から検討した。
【方法】  対象は健常人18名(平均年齢24.1歳±4.4歳、男性13人、女性5人)であった。課題は実際に歩行を行う通常歩行課題、他者が歩行するのを観察する歩行観察課題、両下腿遠位部に2kgの重錘バンドをつけて歩く重錘負荷歩行課題の3課題とし、条件としてそれぞれ実際に歩行を行う実行条件、運動イメージを想起するイメージ条件を設定した。歩行開始時の脳活動は日本光電社製誘発電位・筋電図検査装置Neuropack M1を用いて随伴性陰性変動(CNV)を記録した。CNVは聴覚刺激などを用いてS1、S2の二組の刺激を呈示し、そのS2に対してできるだけ速く反応するという課題を行っているときの脳活動を捉えるもので、その後期成分はLate CNVと言われ、S2に対する期待や運動の準備過程を反映するとされている。参加者はヘッドホンを装着し、そこから聴覚刺激によるS1とS2が提示された。S1、S2は1000Hzのtone burstを用い、刺激間間隔は2秒であった。全ての課題・条件の計測時には参加者の前方にある目印を注視させた。記録電極は国際10-20法に従い、Fz、Czの2部位とし、右耳朶を基準電極とした。電極にはAg/AgCl皿電極を用いた。測定時、各電極の電気抵抗は5kΩ以下であった。また、眼電図により眼球運動をモニターし、前脛骨筋(TA)の筋電図により歩行開始を判断した。眼球運動によるアーチファクトやS2前にTAの筋活動が認められた場合は、その試行結果を除外した。得られた波形からS1前100msの電位をベースラインとし、S2前100ms時点の電位をLate CNVの振幅として算出した。統計学的分析は統計ソフトSPSS for Widows 13.0Jを用いて、2要因(課題・条件×電極)の分散分析を行った。
【説明と同意】  研究内容は神戸大学保健学倫理委員会にて承認を得た。研究参加者には事前に研究内容と方法について十分な説明を行い、書面での同意を得た。
【結果】  データを取得した参加者のうち、全ての課題・条件で最終的に得られた波形の加算回数が30回以上であった10名について、統計学的検討を行った。Late CNVの2要因分散分析では、課題・条件(F (5, 99) = 1.65, p = 0.153)の主効果は認められなかったが、電極(F (1, 99) = 64.00, p < 0.001)の主効果が認められ、全ての課題・条件でFzに比しCzに有意な陰性電位を認めた。交互作用は認められなかった(F (5, 99) = 1.24, p = 0.298)。
【考察】  足の運動に伴う準備電位や歩行時のLate CNVはCzで最大であることが報告されており、本研究でも全ての課題・条件でそのことが確かめられた。また、イメージ条件においてもCzにLate CNVを認めたことから、歩行を課題とした場合にも運動イメージによる運動準備が生じることが示された。Late CNVの発生源は前頭前野、補足運動野、一次運動野、一次感覚野や大脳基底核であることが報告されており、イメージ条件でLate CNVが認められたことは、歩行イメージによってもこれらの運動関連領野が活性化された可能性が考えられる。
 上肢の運動観察と運動実行を比較した研究では、振幅は減少しているものの運動観察において準備電位が認められたと報告されている。歩行観察においてもLate CNVを認めたことは、上肢による対象物への行為だけでなく、歩行の観察においても運動準備が生じることを示唆する。
 重錘負荷歩行ではLate CNVの増大傾向を認めた。運動の準備電位は発揮する筋力に比例して大きくなったとの報告がある。本研究の結果はこれまでの単関節での運動に対する負荷だけでなく、歩行という動作に対する負荷によっても同様の傾向があることを示した。しかし、通常歩行と比較して有意差を認めなかったことから、負荷量等を考慮した上で今後さらなる検討が必要である。
 これらのことから、本研究では歩行の運動イメージや観察において、実際の運動時と時間的に類似した脳活動が生じている可能性が示された。
【理学療法研究としての意義】  運動イメージや観察を臨床に利用するための根拠としては、これまで空間的側面での研究結果によるものがほとんどであった。今回の研究結果は時間的側面での根拠の一つとなる。

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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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