近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 21
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初期もの忘れ外来での理学療法士の取り組み
~運動機能とHDS-Rスコアの関連性~
*上原 光司小杉 正長尾 卓西野 加奈子石原 拓郎浅野 美季欅 篤
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抄録
【はじめに】当院の位置する高槻市北部は、全人口中の65歳以上の年齢層の占める割合が27%を超える(全国平均22%)高齢化地域である。人口の高齢化に伴い認知症患者の激増が予想され、早期発見・早期治療の重要性が高まっている。認知症の高齢者は、注意力の低下などから転倒する機会が増加するといわれ、外出の機会減少や活動量低下に伴い基本運動能力も低下すると考えられている。当院では、2010年9月より初期もの忘れ外来がスタートした。まず医師の診察時に改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を行い、作業療法士や言語聴覚士がMMSEを含む5種類の神経心理検査を実施、理学療法士が基本運動能力の評価を行っている。画像検査はMRI(VSRAD)を全例に、脳血流シンチグラフィーを一部の症例に行い全ての検査終了後、医師と各療法士が検査結果を検討し患者や紹介医への報告書を作成している。我々理学療法士が検査・測定する項目は、膝伸展筋力、握力、片脚立位、10m歩行、Time up & Go test(以下TUG)、重心動揺計測などである。 本研究では、初期もの忘れ外来受診患者において神経心理検査の中のHDS-Rのスコアと運動機能の評価項目との関係を検討した。
【対象】2011年2月~6月の間に当院もの忘れ外来を受診した患者29名(男性11名、女性18名)で平均年齢は77.9±7.6歳であった。また、厚生省障害老人の日常生活自立度判定基準がJランクの者とした。
【方法】身長、体重を測定し日常の身体活動量(運動習慣)と、転倒スコアの聞き取りを行った。身体活動量は点数化し、日常生活以外に運動の時間を毎日作って実行している群を3、週に2~3回実施している群を2、全く実施していない群を1と設定した。膝伸展筋力は、ハンドヘルドダイナモメーターを用いて測定した。左右それぞれ2回ずつ行い、最大値を筋力として採用し、体重で除した値を筋力体重比とした。バランス能力は、GRAVICORDER(G-620)解析システムを使用し、開眼・閉眼ともに30秒間計測した。 10m歩行とTUGの測定は、2回連続して行いその最速値を代表値とした。なお測定に際して、杖歩行が不可能な場合は対象から除外し本研究では最大努力で行った。分析は、HDS-Rスコアと運動機能評価項目との関連性についてSpearmanの順位相関を用いて検討した。さらに、HDS-Rスコアの20点以上(以下A群)と19点以下(以下B群)に分類し検討を加えた。
【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し、研究への参加に対する同意を得た。
【結果】測定項目の全患者平均値は、大腿四頭筋筋力が0.36±0.11、10m歩行が7.1±2.1秒、TUGが9.3±2.4秒、開眼片脚立位が14.4±11.7秒、総軌跡長が39.3±17.4_cm_、外周面積が1.8±1.7_cm_2、HDS-Rスコアが21.5±4.3点、日常の身体活動量は2.1±0.8であった。HDS-Rスコアと運動機能評価項目との関連性を検討すると、膝伸展筋力(r=0.54、p<0.004)が有意な正の相関を認め、TUG(r=-0.43 p<0.03)が有意な負の相関を認めた。一方、A群とB群を検討すると、HDS-Rスコア(p<0.0001)と膝伸展筋力(p<0.01)において有意差が認められた。
【考察】今回、初期もの忘れ外来患者を対象に、認知機能を表す指標であるHDS-Rスコアと運動機能の関連性について検討した。その結果、膝伸展筋力が有意な正の相関を認め、TUGが有意な負の相関を認めた。またHDS-Rスコア別に膝伸展筋力との関係を検討すると、一般に認知症が疑われるB群においてA群の患者より有意に低く、下肢筋力と認知機能との関係が推測された。また本研究では、日常の身体活動量は有意差が認められないものの、B群の方がA群と比較して低値を示す傾向(p<0.08)があり、認知機能低下に伴う活動性低下、運動量の減少により必然的に廃用の要素が加重されることになった結果が反映されている。以上のことより、運動機能と認知機能は車の車輪のようなもので、片方が落ちると他方も落ちやすいことを示している。両病態が相まって高齢者のADLを低下させ転倒や寝たきりに結び付くため、A群の患者でもADL維持に努めることの重要性が示唆される。
【理学療法研究としての意義】今回の研究では、認知機能と運動機能には密接な関連性があることが示唆された。今後は、運動機能を維持あるいは向上させることによりADLの低下を防ぐことが高齢化に伴う認知機能の低下にどのように寄与できるか、理学療法士として取り組んでいきたいと考えている。
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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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