抄録
【目的】当院では2008年より心臓リハビリテーション(以降、心リハ)を実施しており、対象は年間400例を超える。当院心臓血管外科における待機手術では、検査等にかける日数が入院から手術当日まで約1週間ある。術後はFast Tracking Programにより、術後翌日から早期離床・早期歩行を開始している。これまで術後心リハを開始すると、激しい創部痛による拒否や早期離床の説明・理解不足から拒否されるケースを経験することがあった。今回、術前から理学療法士が介入し患者指導することによる効果を検討した。
【方法】当院心臓血管外科にて手術を受けた患者を対象とした。術式内訳は冠動脈バイパス術、心臓弁置換術、僧帽弁形成術、大動脈人工血管置換術、左室形成術、その他であり、それぞれ複合手術を含む。術前指導非実施群(以降、非実施群)と術前指導実施群(以降、実施群)の2群に分け、前者は入院日2010年10月の22名(男性12例、女性10例、年齢67.95±11.97歳)、後者は入院日2011年2月の24名(男性17例、女性7例、年齢72.33±7.95歳)である。実施群は術前指導を行っていない緊急手術症例を除外し、待機手術のみとした。術前指導は、当院独自の心リハプログラム進行表を用いて、入院から手術までに1回実施した。次に各群胸部正中切開のみを選別し、以下の評価を実施した。評価内容は手術日を第0病日とし、(1)術後心リハ開始日(2)開始日創部痛評価(VAS)(3)開始日鎮痛薬内服の有無(4)60m歩行達成日(5)200m歩行達成日(6)心リハ室初回日(7)終了日創部痛評価(VAS)(8)終了日鎮痛薬内服の有無(9)術後在院日数である。術後合併症等で難渋したバリアンス症例を除外し、非実施群中全評価可能であった17例(男性9例、女性8例、年齢68.73±12.86歳)をA group(以降、A)、実施群中全て評価可能であった13例(男性9例、女性4例、年齢72.85±7.65歳)をB group(以降、B)とした。統計学的解析にはSPSS 15.0Jを使用した。各指標の差異の検定にはPearsonのχ2検定、Wilcoxon検定、Mann-WhitneyのU検定を用いた。なお統計学的有意差判定基準は5%未満とした。
【説明と同意】対象には心リハ介入時あるいは心リハ室にて、診療上知り得た内容を研究に使用する可能性があることを口頭で説明し、同意を得ている。
【結果】心リハ拒否は非実施群において2例、実施群において0例であった。拒否と術前指導の有無についてχ2検定を行ったところ、有意な関連は認めなかった(p=0.223)。各指標の平均値と標準偏差は以下の通りであった。術後心リハ開始日:A=1.53±0.87日,B=1.77±1.24日、開始日創部痛評価(VAS):A=40.33±22.65mm,B=33.00.±15.13mm、開始日鎮痛薬内服の有無:A=有16無1,B=有9無4、60m歩行達成日:A=2.67±1.70日,B=1.85±1.41日、200m歩行達成日:A=4.47±1.50日,B=3.77±1.64日、心リハ室初回日:A=5.80±3.35日,B=5.38±2.29日、終了日創部痛評価(VAS):A=22.40±19.60mm,B=17.30±15.88mm、終了日鎮痛薬内服の有無:A=有6無11,B=有1無12、術後在院日数:A=13.93±5.40日,B=12.92±4.80日。評価(1)~(9)に(10)開始日と終了日のVAS変化(11)鎮痛薬内服の変化を加え、Mann-WhitneyのU検定を用いて群間比較したところ、鎮痛薬内服の変化において有意差を認めた(p=0.026)。また、Wilcoxon検定を用いて(10)(11)の群内比較を行ったところ、術前指導の有無に関わらず有意差を認めた(A(10)p=0.004,(11)p=0.002、B(10)p=0.038,(11)p=0.005)。
【考察】術前指導により拒否症例が減少する可能性が示唆された。今回有意差を認めなかったのは症例数が少ないためと考えられる。先行研究では信頼関係の構築が重要であると述べられているが、実際に術後開始時の印象に好ましい変化が感じられた。また、先行研究では術前指導により歩行自立獲得日数・在院日数が短縮したと報告されているが、今回それらは認めなかった。これは当院がFast Tracking Programを実践しているためで、予想通りの結果となった。また、術前指導の有無に関わらず創部痛の軽減や鎮痛薬の使用期間短縮が認められた。しかし術前指導を受けると、さらなる鎮痛薬の使用減少が認められた。術前から創部痛に関する説明を受け、対処法を習得することで、術後出現した創部痛に対する不安感を緩和し、動作誘発性疼痛の予防に寄与したと考えられる。
【理学療法研究としての意義】心リハは循環器疾患に対し有効的治療法かつ予防法の一つとして確立されているが、わが国において術前介入の効果を示す報告は多くない。在院日数短縮傾向にある急性期では、術前介入が術後や退院後に好影響を及ぼす可能性がある。本研究はこの点に関する意義を有する。