近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 24
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腹部外科手術後症例に対する経皮的電気刺激治療の効果
単盲検無作為化比較試験による検討
*徳田 光紀田平 一行増田 崇西和田 敬庄本 康治
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抄録

【目的】 腹部外科手術後は早期離床,肺合併症の予防の観点から効果的な鎮痛や呼吸機能の改善が必要とされる.腹部外科手術後の鎮痛には薬物療法が中心に実施されるが,副作用の問題があり,鎮痛薬は極力少量とされることが望ましい.一方で,経皮的電気刺激治療(Transcutaneous electrical nerve stimulation: TENS)はゲートコントロール理論と内因性オピオイド放出などによる鎮痛効果があり,非侵襲的で副作用がほとんどない理学療法手段として多く使用されている.海外では,腹部外科手術後症例に対してTENSが実施され,鎮痛効果ならびに肺活量(vital capacity: VC)を増加させるなどの呼吸機能改善効果に関する多くの研究結果が示されているが,本邦での報告は散見される程度である. また,術後肺合併症の予防には喀痰排出に関する咳嗽力の影響が大きい.咳嗽力は咳嗽時最大呼気流量(cough peak flow: CPF)として評価され,神経筋疾患を対象とした報告は多くみられるが,外科手術後のCPFを評価した報告はきわめて少なく,TENSによる影響を捉えた報告は皆無である. TENSの実施方法に関して,ゲートコントロール理論を最大限に反映するには,最も疼痛の強い術創部と同一皮膚分節領域上に電極を設置するべきである.またTENSの周波数に依存して選択的に内因性オピオイドが放出されることや,強度の変調によってシナプスの可塑性変化が効果的に作用することが報告されていることを考慮すると,実施周波数や強度は固定せずに機器側で変調させるべきである.しかし,これらを考慮してTENSを実施した研究は散見される程度である. そこで,本研究の目的は,腹部外科手術後症例に対して上記のTENS理論を加味してTENSを実施し,疼痛,VC,CPFへの影響を検討することとした. 【方法】 対象は開腹手術を行った症例14名(男性10名,女性4名,年齢46~85歳)で,placebo群とTENS群に各7名ずつ,ランダムに割り付けた.TENSには電気刺激治療器(Chattanooga社製,Intelect ADVANCE COMBO)を使用した.TENS群は対称性二相性パルス波,パルス持続時間200μs,周波数は1~250 Hzで変調させ,強度は不快でない最大の強度に40%変調し,治療時間60分とした.電極は自着性電極(Axelgaard社製,PALS,5 cm×9 cm)を4枚使用し,電極1は術創部から平行に3 cm離して貼付し,電極2は電極1と反対側に術創部から平行に3 cm離して貼付した.なお,皮膚分節領域はJG Keegan らによるものを参照した.placebo群はTENS群と同条件で最初の1分間のみ電気刺激を加え,その後59分間は電極を貼付したままsham刺激として実施した.各介入は,術直後(術後0日目)から術後3日目まで1回/日ずつ実施した.疼痛は安静時痛と咳嗽時痛を100mmのVisual Analog Scale(VAS)で測定した.VC,CPF測定には電子スパイロメーター(日本光電社製,HI-201)を使用し,測定肢位は座位とした.各評価は手術前と術後3日目のTENS実施前(TENS前),TENS開始30分後(TENS中),TENS終了20分後(TENS後)に実施した.統計解析は各疼痛のVASおよびVC,CPFの回復率(術前値100%としたものを算出)について,2元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較を用いた.いずれも有意水準1%未満とした. 【説明と同意】 被験者には,本研究の十分な説明を口頭および文書にて行い,同意および署名を得た.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得た(承認番号09- 2). 【結果】 安静時痛および咳嗽時痛においてTENS群はplacebo群よりも有意に低値を示し,VC,CPFの回復率においてTENS群はplacebo群よりも有意に増大した(いずれもp < 0.001).また多重比較の結果,TENS群では,TENS前と比較してTENS中およびTENS後で,安静時痛と咳嗽時痛が有意に低値を示し,VC,CPFの回復率が有意に増大した(いずれもp < 0.001).特にTENS群のTENS中は最も変化が大きく,(TENS前平均→TENS中平均)=安静時痛(24.6→14.6 mm),咳嗽時痛(78.4→60.4mm),VC回復率(55.0→71.8%),CPF回復率(57.5→67.8%)となった. 【考察】 TENS中,TENS後には安静時痛および咳嗽時痛が軽減し,VC,CPFの改善も認めた.特にTENS中では,疼痛軽減やVCおよびCPFの改善が顕著であった.腹部外科手術後症例に対するTENSは,鎮痛効果に加え,呼吸機能の改善にも効果的に作用することが示唆された. 【理学療法研究としての意義】 本研究により腹部外科手術後症例に対するTENSは,呼吸理学療法と併用することで,早期離床や肺合併症の予防に有用な一手段になり得ることが示唆できた.また,急性期鎮痛を目的としたTENSは,理学療法分野拡大にも繋がると考えられる.

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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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