近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 22
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結帯動作における肩甲骨周囲筋群の筋活動について(第2報)
*高見 武志松田 俊樹三馬 孝明中道 哲朗鈴木 俊明
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キーワード: 結帯動作, 筋電図, 広背筋
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抄録

【目的】 我々は第50回近畿理学療法学術大会にて、結帯動作における僧帽筋上部線維・中部線維・下部線維・前鋸筋の筋活動パターンについて報告した。臨床ではこれら4筋の筋活動パターンについて評価、治療を行うことで良好な治療効果が得られているが、広背筋の筋活動パターンの変化により結帯動作が改善する症例を経験することがある。そこで今回は先行研究の対象筋4筋に広背筋上部線維を加えた計5筋を対象に、結帯動作時の筋活動を筋電図学的に検討した。 【方法】 対象は整形外科学・神経学的に問題のない健常男性10名(平均年齢23.9±2.1歳)の両上肢、計20肢とした。開始肢位は端座位にて検査側肩関節外転・伸展・内旋位とし、母指の掌側面先端が第5腰椎(以下 L5)に位置する肢位とした。運動課題は開始肢位から母指を脊柱に沿って上方に移動させ、第12胸椎(以下 Th12)を通過して第7胸椎(以下 Th7)に至った肢位を終了肢位とした。運動課題の遂行時間は2秒間で行い、これを1施行とし各被験者につき3施行ずつ実施した。運動課題中の規定は体幹の運動が起こらないようにし、視線は前方を注視させた。測定項目は僧帽筋上部線維・中部線維・下部線維、前鋸筋、広背筋上部線維の筋電図波形を筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)にて記録した。また各筋が活動する時期を明確にする目的でスイッチをL5、Th12、Th7のそれぞれ棘突起上に貼付し、母指とスイッチが接触するようにした。分析方法は、3箇所に貼付したスイッチの反応時期と導出筋の筋活動パターンについて分析した。また運動課題時における肩甲骨の運動を明確にする目的で、肩峰・肩甲棘内側端・下角にマーカーを付け3点で結び、静止画を撮影し、結帯動作における下垂・L5・Th12・Th7の各レベルにおける脊柱と肩甲骨の位置関係を解析した。 【説明と同意】 各被験者には本研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得た上で研究を実施した。 【結果】 結帯動作における肩甲骨運動は全ての被験者にて下垂位からL5で挙上・内転位、L5からTh12で挙上・上方回旋位、Th12からTh7で下方回旋位を示した。筋電図では僧帽筋上部線維・中部線維は開始肢位より活動した。僧帽筋上部線維の筋活動はL5からTh12の間で増加傾向を示し、Th12からTh7の間で減少傾向を示した。僧帽筋中部線維の筋活動はTh12からTh7まで増加傾向を示した。僧帽筋下部線維と前鋸筋の筋活動はTh12以降にほぼ同時に開始し、Th7まで増加傾向を示した。広背筋上部線維はTh12付近から活動が開始し、この活動はTh7まで認められた。 【考察】 僧帽筋上部線維の筋活動が開始肢位からみられたことについて、開始肢位にて肩関節は外転位となるため、肩甲帯を挙上する目的で活動したと考える。また僧帽筋上部線維の筋活動がL5からTh12の間で増加傾向を示したが、これは肩甲帯を挙上し上肢をより高位に移動する目的で活動したと考える。僧帽筋中部線維の筋活動は開始肢位から認められ、Th12付近からTh7にかけて漸増傾向を示した。まず開始肢位において肩関節は伸展位となるため、これに伴い肩甲骨は内転し、この時僧帽筋中部線維は肩甲骨の内転位保持に関与したと考える。本田らは結帯動作ではTh12からTh7にて肩甲上腕関節の内旋と外転は変化がなく、Th12以降は主に肩甲骨運動によって行われると報告している。本課題でも僧帽筋中部線維は肩関節運動が減少するTh12付近から、積極的に肩甲骨を内転する目的で活動したと考える。僧帽筋下部線維と前鋸筋はTh12からTh7間で筋活動が認められた。福島らは僧帽筋下部線維は肩甲棘内側下部に付着し、肩甲骨前傾モーメントの制御機能を有すると報告している。本課題ではTh7に近づくにつれ肩甲骨前傾角度が増加すると考えられ、僧帽筋下部線維と前鋸筋は肩甲骨前傾を制動する目的で活動したと考える。生友らは広背筋上部線維は肩関節内旋・水平伸展時に選択的に作用すると報告している。またNeumannは肩鎖関節における下方回旋は解剖学的肢位に肩甲骨を戻すことであり、この運動は力学的に肩の内転あるいは伸展と関係し、さらに肩甲骨に付着する広背筋線維の一部は菱形筋による肩甲骨の下方回旋を補助すると報告している。本課題では肩甲骨はL5からTh12において上方回旋することから、広背筋上部線維はL5からTh12に上方回旋位となった肩甲骨を、肩関節伸展・内転運動に伴う肩甲骨下方回旋運動を誘導する目的でTh12以降に活動したと考える。 【理学療法研究としての意義】 本研究結果より結帯動作において広背筋上部線維はTh12からTh7に至る過程で筋活動が認められた。この筋活動は肩関節伸展・内転運動に伴い、肩甲骨の下方回旋を誘導していると考えられた。そのため臨床においてTh12以降に肩甲骨の下方回旋が不十分である症例に対しては、僧帽筋の各線維や前鋸筋に加え、広背筋上部線維の筋活動を評価することが有用であると考えられる。

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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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