近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 25
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下肢弾性ストッキング強度が起立時の血行動態に及ぼす影響
*鈴木 裕二守川 恵助乾 亮介芳野 広和田平 一行
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抄録

【目的】
 持続的な臥床状態は圧受容器反射の減弱を招き、起立性低血圧(OH)を引き起こす。健常人においてもOHは立ちくらみという形でしばしば経験される。臨床において理学療法士がOHに遭遇する場面は自律神経変性疾患や術後の廃用症候群など多岐に及ぶが、この対策として下肢弾性ストッキングの使用が効果的であると報告されている。しかしどの程度の圧迫力の弾性ストッキングがOHに対して効果的なのかは一致した見解がみられていない。今回はOHに対してより有用な弾性ストッキングの圧迫力について検討した。
【方法】
 対象は健常男性18名(年齢:24.5±3.1歳)中起立試験において収縮期血圧の低下が平均以上であった9名(年齢:24.7±1.1歳)を研究対象とした。使用弾性ストッキング(Medi Plus,mediven社)は圧迫力が弱・中・強圧の3種類であり、それぞれ足首に対して、18~21mmHg、23~32mmHg、34~46mmHgの圧迫が加わるものを用いた。同一被験者は弱・中・強圧のストッキングをそれぞれ使用した状態(弱・中・強圧群)とストッキングを使用しない状態(コントロール群)の4条件においてそれぞれ起立試験を行った。起立試験は次の1)~4)の手順で行った。1)安静座位6分間。2)安静立位2分間。3)Squat-Stand-Test(SST):膝を完全に屈曲させて座り込んだ姿勢を4分間保ち、その後急激に起立する課題。4)安静立位保持2分間。各起立試験実施中の血行動態の変化は非侵襲的連続血圧測定装置(PORTAPRES,FMS社)において一拍ごとに測定した。測定項目は収縮期血圧(SBP)、平均血圧(MAP)、一回拍出量(SV)、心拍出量(CO)、総末梢血管抵抗(TPR)とし、SSTの起立直前の10秒間と起立直後の10秒間の平均値を求め、変化値(起立直後-直前)を算出した。統計処理は各測定項目における変化値の比較に一元配置分散分析(対応あり)を用い、各群間の比較にはBonferroni検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
 本研究は、協力していただいた施設の倫理委員会の承認を得ると同時に、ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容を説明し、署名によって同意を得た。
【結果】
 SBPの変化値はコントロール群(-47.0±7.8mmHg)、弱圧群(-36.2±6.9 mmHg)、中圧群(-36.4±6.8 mmHg)、強圧群(-35.9±6.4 mmHg)で立位後にそれぞれ低下がみられた。そして、コントロール群に比べて弱・中・強圧群の3群すべてにおいてSBPの変化値は有意に軽減していた(p<0.05)。MAPの変化値も同様にコントロール群(-44.7±3.3mmHg)に比べて弱圧群(-39.8±3.4mmHg) 、中圧群(-38.6±4.9mmHg)、強圧群(-39.1±3.1mmHg)の3群すべてが有意に軽減していた(p<0.05)。SBP、MAPの変化値はともに弱・中・強圧群の3群間での有意差はみられなかった。SVの変化値はコントロール群(-0.7±10.3ml)、弱圧群(+5.5±11.4 ml)、中圧群(+6.7±6.5 ml)、強圧群(+10.8±9.5 ml)であり、弱・中・強圧群すべてがコントロール群と比べて高値であった。しかし有意差はコントロール群と弱圧群間のみでみられた(p<0.05)。HR(心拍数)、CO(心拍出量)、TPR(総末梢血管抵抗)については各群間に有意差はみられなかった。
【考察】
 急激な起立負荷に対して下肢の末梢循環系には一時的に血液が溜まり、静脈還流量が低下するため血圧の低下が起こる。この刺激に対して交感神経は心臓でSV、HRを上昇させ、末梢細動脈でTPRを上昇させることによって血圧を維持するとされている。今回の実験においても各群において同様の反応がみられた。その中で、弱・中・強圧群が起立時のSBP、MAPの低下を抑制できたのは、ストッキングの使用が下肢への血液貯留を防ぎ、静脈還流量を増加させ、SVを上昇させたことが原因の一つと考えられる。弱・中・強圧群間においてSBP、MAP の変化値に有意差がみられなかったことから、OH対策としての下肢弾性ストッキングの使用は本実験における弱圧(18~21mmHg)レベルで十分効果的であると考えられる。
【理学療法研究としての意義】
 本研究より、圧迫力の強度に関係なく弱圧・中圧・強圧すべてのストッキングが起立負荷時の血圧低下を有意に防げることが示唆された。ストッキングの圧迫力は強くなるに連れて装着は困難となり、使用者の不快感も大きい。OH予防として弱圧のストッキングが十分に効果的であることは使用者の負担を軽減できる意味で大きな意義がある。

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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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