抄録
【目的】
近年の医療情勢において、在宅でのがん医療推進が求められている。しかしながら、患者本人や家族は在宅生活に身体的、精神的な不安を感じている。その中で、理学療法士(以下PT)が介入する役割は身体的な不安を軽減させることである。しかしながら、終末期リハビリテーション(以下、終末期リハ)という限りある時間の中で、身体的な変化をもたらす必要がある。つまり、訪問PTが介入早期の段階での深い信頼関係の構築、身体的評価の正確さを向上させることが重要である。そこで、訪問PTの介入前過程また介入後の関与方法を検討することで、在宅がん医療でのPT介入方法への着眼点を検証することが本研究の目的である。
【方法】
がん患者における終末期リハに関して、訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)を行なっている3例について報告を行う。
【説明と同意】
紹介する3例に関して、ヘルシンキ宣言に基づき、ご本人ならびに家族に対して研究に関する説明を行い同意を得た。
【結果】
ケース1:80歳代、男性、悪性リンパ腫、腹腔内多発腫瘍。退院時には、膝関節拘縮著明、易疲労性のため車椅子生活であった。入院担当PT継続関与により、本人の希望である歩行を目的に、主治医との連絡体制確立し負荷量設定、歩行補助具検討、自主練習指導を行い、杖歩行での外出が可能となった。その後、在宅生活1年半経過し、状態悪化に伴い再入院、継続してPT施行することで、看取り2日前まで座位保持可能。本人・家族に寄り添うPTが施行できた。
ケース2:70歳代、女性、肺がん、全身多発転移。退院後3ヵ月医療的な処置のみで寝たきり状態であった。「誕生日に花見がしたい」との希望でPT介入。担当訪問Nsより居住環境などの情報収集を行い、介護支援専門員(以下CM)と共にサービス前調整自宅訪問、骨転移等情報収集、座位評価、在宅医とノートによる連携を取りながら、リクライニング車椅子導入。介入1ヶ月後、PT、Ns、家族と花見を行い、その後、家族と福祉輸送職員で主治医外来受診。本人から「死ぬ気がしなくなった。」「やりたいことが増えた。」などの発言が増えた。
ケース3:30歳代、女性、肺がん、HOT、歩行時呼吸苦著明、月単位余命宣告あり。本人の「自宅で生活したい」との希望により、退院前会議に訪問看護ステーション管理者と参加、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)に入院担当PT、主治医からの情報提供を依頼、本人・家族と面談。その後、退院前に担当PTと書面、電話にて情報収集行った。退院翌日にサービス前調整自宅訪問にて、訪問看護師(以下Ns)と共に住環境確認し、サービス内容を同日に午前にNsによる入浴動作の実施、午後にPTによる動作確認、指導を行うこととした。くわえて、午前終了後の報告・午後終了後に情報交換を行うことで、福祉用具導入等即日対応することが可能であったことが、本人・家族への安心感につながり、看取り4日前までの訪問リハ施行し、約2ヶ月間の在宅生活を可能とした。
【考察】
がんの終末期に直面している本人や家族は、病院から在宅への新たな環境へ向かう際、身体的・精神的不安を抱えている。PTは主に身体的側面に介入することが主眼となるが、本人や家族はPTが介入することに期待と不安があると思われる。したがって、介入前後から信頼関係を築き、それを継続させることが最も重要であると思われる。そこで今回の3例のように、入院時から継続的関与、関係職種(主治医、在宅医、CM、MSW、Ns、ヘルパーなど)との連携・連絡体制構築、同職種間での情報共有などにより、介入直後から信頼関係が容易に築くことが可能であった。また、入院中から連携・連絡体制を継続することにより、即時対応が可能であり最後の時まで「人間らしく生活する。」という目標に寄り添うことが可能であったと言える。つまり、終末期リハの訪問PTが直接介入による身体的変化に着目するだけでなく、その事前準備、周辺業務を行うことが必要である。特に、終末期リハではその連携を目に見える形で行うことが、本人・家族への精神的不安の減少につながり、訪問PTとして必要な介入方法であると考える。
【理学療法研究としての意義】
がんの在宅医療推進が求められている中、我々、理学療法士が在宅でがん患者への支援方針や介入方法の研究を行うことで、国民ががん治療を受ける際に、在宅で過ごすという選択肢が増えることが期待される。