抄録
【目的】我々は先行研究において、1000msの間隔の周期的な聴覚刺激を呈示し、一側の足関節背屈で応答させる反応時間課題を設定し、刺激回数の増加が筋電図反応時間(Electromyographic Reaction Time;以下EMG-RT)に及ぼす影響について検討した。EMG-RTは1、2回目と比較して3回目以降が有意に短縮し、3回目以降のEMG-RTには有意な差を認めなかった。3回目以降の聴覚刺激に対する運動は、刺激間隔に一定のリズムがあることを認識し、効率的に運動が出力されていると考察した。また、1000msの間隔の周期的な聴覚刺激の呈示中に、異なる間隔(1200ms、2400ms、4800msの3条件)の聴覚刺激を呈示し、EMG-RTの変化について検討した。周期的な聴覚刺激を呈示した2、3、4、5回目のEMG-RTは1回目と比較して有意に短縮し、異なる刺激間隔を呈示した6回目のEMG-RTは3条件とも有意な差を認めなかった。異なる間隔の刺激呈示はその長短に関わらず、周期性を破綻させ効率的な運動を困難にすると考察した。本研究では周期的な聴覚刺激の呈示中に、異なる刺激間隔の定期的な呈示が運動発現に及ぼす影響について知ることを目的に、聴覚刺激を周期的に連続5回呈示したのち刺激間隔を変化させて1回呈示する刺激パターンを連続的に繰り返し、EMG-RTの変化について検討した。
【方法】対象は、健常者17名(平均年齢24.1±3.8歳)とした。実験機器は、テレメトリー筋電計MQ8(キッセイコムテック)を使用し、10~1000Hzの帯域周波数で記録した。記録筋は、右前脛骨筋とした。聴覚刺激の作成にはSoundTrigger2Plus(キッセイコムテック)、聴覚刺激と筋電図の記録には波形データ収録プログラムVitalRecorder2(キッセイコムテック)を用いた。聴覚刺激の刺激条件は刺激周波数を900Hz、刺激回数は1試行につき24回の連続刺激とした。条件は以下の4つを設定した。1000msの間隔の周期的な聴覚刺激を呈示するものを条件1とした。1000msの間隔の聴覚刺激を周期的に連続5回呈示したのち、1200ms後に6回目の刺激を呈示するものを条件2、2400ms後に刺激を呈示するものを条件3、4800ms後に刺激を呈示するものを条件4とした。条件2、3、4は6回の聴覚刺激で構成される刺激パターンを連続的に4回繰り返した。試行は各条件を5試行ずつ、合計20試行をランダムに実施した。各条件とも1試行目を除く4試行を検討の対象とし、平均値を個人の代表値とした。1回目のEMG-RTに対して6、12、18、24回目のEMG-RTの変化を検討した。統計処理は、一元配置分散分析と多重比較検定(Dunnet法)を用いた。有意水準は5%とし、統計学的な有意差を判定した。
【説明と同意】被験者には本研究の目的と方法、個人情報に関する取り扱いについて書面および口頭で説明し、同意書に署名を得た。
【結果】条件1は、1回目と比較して6、12、18、24回目のEMG-RTが有意に短縮した(p<0.01)。条件2は、1回目と比較して、18、24回目のEMG-RTが有意に短縮した(p<0.05)。条件3、4は、1回目と比較して、6、12、18、24回目のEMG-RTに有意な差を認めなかった。
【考察】条件1は、1回目と比較して6、12、18、24回目のEMG-RTが有意に短縮した。これは、先行研究と同様に3回目までの周期的な聴覚刺激に対する運動で予測的な反応が導入され、3回目以降では運動が効率的におこなわれたと考えた。条件2は、1回目と比較して6、12回目のEMG-RTに有意な差を認めず、18、24回目のEMG-RTが有意に短縮した。6、12回目のEMG-RTは、先行研究と同様に周期的な聴覚刺激の呈示中に異なる刺激間隔が定期的に呈示されたことで、内部に確立した周期性が破綻し予測に基づいた運動が困難となったと考えた。呈示された音韻情報は1000~2000msの記憶保持が可能であることが知られている。このため、1200msの刺激間隔では刺激パターンの認識が可能となり、24回の聴覚刺激を連続性のものとして捉えることができた結果、18、24回目の異なる刺激間隔の呈示をある程度予測できたと考えた。条件3、4の刺激間隔は刺激パターンを認識するには長いため、24回の聴覚刺激を連続性のものとして捉えることができなかったと考えた。
【理学療法研究としての意義】本研究より、内部に確立した効率的な運動中に異なる間隔の聴覚刺激を定期的に呈示する場合、間隔の異なる聴覚刺激の刺激間隔が1200msでは刺激パターンをある程度予測でき、効率的な運動が出力されることが新たな知見として得られた。