近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 50
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尺沢穴への経穴刺激理学療法における母指球筋F波変化
*山下 梓高森 絵斗前田 梨奈小川 那留美上野 亜利沙喜田 伶雄人掘 大樹文野 佳文鈴木 俊明
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キーワード: 経穴刺激理学療法, 尺沢, F波
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抄録
【目的】経穴刺激理学療法は、鍼灸医学における循経取穴の理論を理学療法に応用して、鈴木らが開発した新しい理学療法の手法である。循経取穴は、症状のある部位や罹患筋上を走行する経絡を同定して、その経絡上に存在する経穴を鍼灸治療部位とする理論である。経穴刺激理学療法は、動作分析から筋緊張異常が問題であると判断した場合に用いる。具体的には、治療者の指で経穴に圧刺激を加えることによって、治療目標とする筋の緊張を変化させる。圧刺激を加える際、筋緊張抑制には垂直方向、筋緊張促通には治療目標とする筋に対して斜め方向に経穴を圧迫する。本研究では、手太陰肺経の尺沢穴への筋緊張促通目的での経穴刺激理学療法実施前後の手太陰肺経を通る母指球筋に対する脊髄神経機能の興奮性の変化をF波で検討した。
【方法】対象は、健常者17名(男性11名、女性6名、平均年齢21.8±4歳)とした。 まず安静背臥位で正中神経刺激(前腕遠位部をM波出現閾値の1.2倍強度、刺激持続時間1ms、刺激頻度0.5Hzで30回刺激)時に母指球筋からF波を記録した(安静試行)。次に、母指球筋を促通する目的で、手太陰肺経の尺沢穴への経穴刺激理学療法を実施した(経穴刺激理学療法試行)。刺激方法としては、尺沢穴に遠位部に向かって斜め方向へ圧刺激を加えた。圧刺激強度は痛みを感じない程度とし、刺激時間は1分間とした。この経穴刺激理学療法試行において、安静試行と同様の条件でF波を測定した。また経穴刺激理学療法終了直後(終了直後試行)、5分後試行、10分後試行、15分後試行においても同様の条件でF波を測定した。F波波形分析としては、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。
【説明と同意】被検者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で実施した。
【結果】振幅F/M比は、安静試行と比較して経穴刺激理学療法試行中に有意に増加(t-test: p<0.05)したが、終了直後試行、5分後試行、10分後試行、15分後試行は安静試行と同様な結果であった。出現頻度および立ち上がり潜時は経穴刺激理学療法試行前後における変化は認めなかった。
【考察】振幅F/M比は脊髄神経機能の興奮性の指標であるために、本研究結果から経穴刺激理学療法試行における脊髄神経機能の興奮性は安静試行と比較して増加したと考えることができる。この要因としては以下のように考えている。尺沢は短母指外転筋上を通る手太陰肺経の経路上にある経穴である。東洋医学的観点から考えると、循経取穴理論により手太陰肺経に属する尺沢への圧刺激は同じ経絡上の短母指外転筋の筋緊張を変化させることができると考えられる。神経生理学的観点から考えると、尺沢の皮膚におけるデルマトームは第6頸髄レベルである。尺沢穴へ圧刺激をおこなうことにより、触・圧覚刺激が前脊髄視床路を通り大脳皮質の感覚野に投射される。各感覚系は、各感覚受容器からそれぞれ感覚情報を受け、視床を経由して体性感覚野に投射され、運動系出力部へ情報が送られる。体性感覚野の興奮性の増大が運動野の興奮性を高めることが考えられた。今回は尺沢穴への刺激により第6頚髄領域の第一次体性感覚野の興奮性が高まり、第6頸髄領域で支配される短母指外転筋の筋緊張が促通されたと考える。また、経穴刺激理学療法試行後のF波波形変化は認めなかった。このことから、今回の経穴刺激理学療法は、試行中にみられた脊髄神経機能の興奮性を試行後まで持続させることが不可能であったことを意味している。
【理学療法研究としての意義】本研究より筋緊張促通目的の経穴刺激理学療法では、経穴刺激理学療法中に脊髄神経機能の興奮性が増加することが示唆された。これらのことから、臨床上での経穴刺激理学療法は、循経取穴理論で考えられる罹患筋に対して斜め方向へ圧刺激を加えながら動作練習を行うことで脊髄神経機能の興奮性を増大させる効果が期待できることがわかった。今回の研究では1分間の刺激であったため、今後は刺激時間、さらに効果的な刺激方法に関して検討する必要がある。
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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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