近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 59
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ギラン・バレー症候群と再発フィッシャー症候群の重複症例に対する理学療法の一経験
*清水 美里青木 利彦中村 慎也秋野 賢一高森 宣行齋藤 佐知子樋川 正直沖 良祐渋谷 高明
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抄録
【はじめに】 ギラン・バレー症候群(以下GBS)は発症頻度が稀少でありFisher syndrome(以下FS)ではさらに低いとされ、どちらも予後良好な疾患である。しかし一方で、GBSの回復が遷延する症例報告も少なくない。また、FSの7.2%がFisher / Guillain-Barré overlap syndrome (以下FS/GBS)に移行するとされ、GBSと比較し人工呼吸器管理を要す割合が高く重症化すると言われている。今回、再発FSと軸索型GBS症状を重複し、急性期から7ヶ月経過し独歩能力の獲得に至った症例の理学療法を経験した。FS/GBS症例に対する理学療法経験についての報告は散見するにすぎず、今回、希少症例を経験したので理学療法経過とともに若干の考察を加えて報告する。 【症例紹介】 40歳代男性。200X年Y月感冒症状出現、1週後より四肢筋力低下、異常知覚および複視が出現したため、当院神経内科受診。既往にFS症候群があり、精査目的に同日入院となる。GBS疑いにて免疫グロブリン大量療法を開始するが、症状増悪し入院後3日目ICU入室。以後も症状進行し、自律神経障害に起因した血圧、脈拍の変動が大きく、呼吸筋麻痺に伴う呼吸困難も認めたため挿管・人工呼吸器管理となる。発症後1週で完全四肢麻痺となり肺炎像も認めたため呼吸機能改善と四肢関節機能維持目的に理学療法開始となる。 【理学療法経過】 初診時現症はHughesらの機能的重症度分類にてGrade5(補助換気が必要)に相当し、気管挿管、人工呼吸器管理中で血圧変動も著明に認めた。 発症2週時の評価として感覚は両手掌、両足関節以遠に異常知覚を認め、深部感覚は異常無し。四肢筋力は近位筋MMT0~2、遠位筋0~1と四肢麻痺状態であった。 理学療法としては、肺炎も合併していたため麻痺の進行状況を確認しながら、ウィーニングを目標に呼吸リハと四肢拘縮予防に努めた。 呼吸機能経過は発症後4週で肺炎が改善。その後、5週よりウィーニング開始し6週で日中のみ、8週で完全に人工呼吸器離脱が可能となった。 運動機能経過は下肢から上肢末梢伸筋群へと回復を認めたが、頚部、体幹に明らかな変化は認めなかった。血圧および呼吸状態も徐々に安定し4週よりギャッジアップ、5週より端坐位訓練へ移行し、起立立位に向けた抗重力筋の筋力増強訓練を増量した。肩関節、手関節、膝関節、足関節に徐々に可動域制限が出現、特に肩関節は亜脱臼を呈し、それに伴う疼痛が強く著明な制限が出現した。 起坐、坐位保持訓練を中心に実施し、2ヶ月半で体幹筋はMMT2レベルであったが、両下肢抗重力筋(近位筋)は2~3+まで改善し、体幹および下肢抗重力筋に対して筋力訓練および坐位バランス訓練、反復起立、立位訓練を実施。当初より筋、筋膜性疼痛や神経因性疼痛の症状はなく、疼痛に留意し自覚症状の確認を実施前後で確認し、運動負荷設定を行った。起立立位が可能となった時点からは体幹下肢失調も呈していた為、協調性訓練も合わせて動作訓練として立位訓練より実施し、経過中は、上記の疼痛症状は認めなかった。4ヶ月で独力立位保持、介助歩行可能となる。5ヶ月で独力起立および歩行器歩行が自立に至り、6ヶ月で監視下屋内独歩が可能となり、階段昇降および屋外不整地歩行などの応用歩行訓練を開始。発症後7ヶ月で階段昇降および屋内独歩、監視下屋外独歩が可能となった。 上肢機能については、両肘関節周囲筋にMMT3レベルの改善を認め、起坐動作およびスプーン、フォークでの食事動作が自立したが、両肩関節周囲筋および手関節以遠筋筋力は末梢優位に異常知覚残存し、MMT1~2レベルと改善が乏しく、書字、箸の使用といった巧緻動作障害が残存した。 発症後7ヶ月で事務職への復職に向けた、上肢機能の改善および日常生活動作の拡大目的に転院の運びとなった。 【考察】 本症例はFS/GBSの重複例で、発症早期より人工呼吸管理を要し、FSの3徴に加えて完全四肢麻痺に至った重症例でもあった。経過はGBSのうち回復が遷延する例と類似した回復経過を辿った。要因としては早期介入により二次的合併症を最小限に抑えることができ、易疲労性や症状の再然に留意した運動負荷量の調整を行った。また、特に失調症状を呈していた体幹、下肢近位筋に着眼した協調性訓練や動作訓練主体として進めたことにより、疼痛の出現なく経過したことが7ヶ月での歩行獲得につながったと考えられた。回復の遷延するGBS症例の報告はされているが、FS/GBS症例では長期的経過の報告は非常に少なく、症状の重複する例についての長期経過の報告が、類似疾患における理学療法実施の一助となると考える。
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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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