抄録
【目的】妊娠中は胎児の成長に伴い脊柱・骨盤帯アライメントの変化が起こり、腰痛を引き起こすことはよく知られている。また、リラキシンなどのホルモン作用により、腰椎や骨盤帯の靭帯が弛緩し、同部位への負担が増強する。腰痛だけではなく、胎児の重量増加や靭帯の弛緩、出産経験により、尿失禁を経験する妊産婦は少なくない。当課では乳児健診に来院された出産経験者(60名)にアンケート調査を実施し、妊娠中や出産後に腰痛や尿失禁を経験した方が多くいたという結果を得た。そこで産科外来で実施されている母親学級で『腰痛予防と尿失禁予防』というテーマで講義と実技を月一回開催してきた。今回、講義終了後アンケート調査を行い、講義内容の理解度を調査し、腰痛予防に貢献できているのか、また今後の課題について検討したので報告する。
【方法】平成21年12月から平成22年9月までの期間に、母親学級に参加された179人を対象とした(妊娠週約24~31週の妊婦)。前置胎盤や切迫早産の危険性があると診断されたものは、講義のみ受けていただき、講義終了後参加者全員にアンケートを実施した(アンケートAとする)。また、腰痛教室で行った講義や実技が有益であったかを知るために、出産を終えられた参加者50名に郵送でのアンケート調査を行った(アンケートBとする)。
【説明と同意】アンケートへの協力は任意であることを説明し、了承を得た方のみ参加していただいた。
【結果】講義終了後に実施したアンケートAの結果では、講義内容はわかりやすい、はじめて聴く内容であった、実技の内容はすぐに実施できそうという意見が多かった。また、現在腰痛がある方は98名(55%)であった。経産婦に行ったアンケートBの調査結果では、アンケートに回答のあった28名(回収率57%)のうち妊娠中腰痛の出現したものは21名(腰痛出現率:75%)、腰痛の発現時期は6ヶ月4名(19%)7~8カ月が8名(38%)、9~10カ月が9名(42%)。腰痛体操を実施したものは18名で、体操で腰痛軽減の効果があったとしたものは16名(88%)であった。腰痛出現は30歳代に多かった。
【考察】妊娠中の腰痛は体形変化(重量増大)による腰椎前弯を来す腰椎由来の筋筋膜性腰痛と、ホルモン作用による関節不安定性で痛みが誘発される骨盤由来の腰痛がある。また妊娠に伴う尿失禁は子宮内胎児の成長に伴い骨盤底筋群がその重量を支え切れずに起こるとされている。今回母親学級で実施した講義・実技の内容は、1)妊婦の腰痛原因(妊娠に伴うアライメント変化)2)腰痛予防体操3)日常生活指導 4)尿失禁の原因 5)腹横筋、骨盤底筋群の収縮の仕方を実技中心に行った。アンケート結果から講義内容は概ね理解され、実際に腰痛予防に役立つことができたと考えられる。しかし、月1回の母親学級での講義参加者は、当院産科で1か月間に出産される妊婦数の約2割にとどまっている。
【理学療法研究としての意義】】妊産婦の腰痛についてはアライメント変化や歩行分析などが行われており、エクササイズの必要性について言われているが、実際にセラピストが関わり腰痛や尿失禁の要因や対策について指導をする機会は少ないと思われる。骨盤安定筋である腹横筋や骨盤底筋群の収縮は自主トレーニングや講義を聴講しただけでは、正確に行えているとは言い難い。実技を通し指導を行うことでより確実な運動方法が実行できるといえる。腰痛教室を受講した方で腰痛を発現した方は、腰痛体操を実施し8割程度に効果があったことから、この取り組みは有効であったと考える。しかし、アンケート調査の結果からは「実技の内容をより詳しく」や「個人指導がしてほしい」などの意見もみられた。今後も定期的にアンケートを実施し、講義・実技内容を再検討しながら継続していきたい。