近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 80
会議情報

脳卒中片麻痺により歩行困難となった症例に対する装具療法の絶大なる効果
転院後に再入院してきた右被殻出血症例の治療経験から
*木下 利喜生児嶋 大介上西 啓裕川西 誠安岡 良訓大古 拓史星合 敬介橋崎 孝賢梅本 安則幸田  剣中村 健田島 文博
著者情報
キーワード: 脳卒中, 歩行訓練, 装具療法
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】 脳卒中片麻痺患者に対する発症早期からの歩行訓練は、当院でのリハビリテーション(リハ)プログラムの基本である。近年オーストラリアで行われた大規模試験(A very early rehabilitation trial for stroke)では、発症から24時間以内に坐位や立位訓練を開始した群の方が12ヶ月後の予後が良く、歩行獲得までの期間を短縮すると判明している。われわれは、装具を使用してでも立位、歩行訓練を実施することが、廃用予防の観点だけでなく、ADLや基本動作の改善に有用と考えている。実際に、下肢装具処方症例の転院後訓練状況・ADLを調査したところ、装具使用群で、歩行能力を含めたADL改善が認められた(unpublished data)。
しかし、装具療法だけでなく、発症早期からの立位・歩行訓練を選択していない施設もあり、結果に大きな差が生じている可能性もある。今回、当院から他回復期リハ病院に転院後、歩行獲得に至らず、当院に再入院した症例を担当した。その際に改めて装具療法を行うことで自立歩行が可能となり、装具療法の重要性を再認識したので啓蒙もふまえ報告する。
【方法】 症例は63歳男性。右被殻出血を呈し、急性期病院で保存的に加療、発症4日後にリハ目的で当院転院となる。重度の左片麻痺、左半側空間無視、身体失認が残存しており、直ちに両側支柱付き長下肢装具を作製し立位・歩行訓練を開始。発症1ヵ月後に家人の希望により他県の回復期リハ病院へ転院となる。転院6ヶ月後に歩行困難ではあったが、回復期の入院期限のため退院を勧告されるも、歩行獲得を希望し当院リハ科へ再入院となる。
リハ開始時の現症は、意識清明、コミュニケーション良好、高次脳機能障害は左半側空間無視、身体失認を認めた。麻痺の程度はBrunnstrom Stage手指_I_・上肢_II_・下肢_III_、麻痺側下肢筋力はMMT2-レベル、非麻痺側下肢筋力MMT4+レベルであった。関節可動域は左足関節に背屈0度の制限があり、感覚は麻痺側で表在・深部ともに軽度鈍麻、深部腱反射は麻痺側で亢進を認めた。基本動作は座位保持可能であったが、ベッド上起き上がり、トランスファーおよび立位は介助レベル、歩行は困難であった。また食事動作は自立していたが、その他の身辺動作は全て介助を要した。
症例は若く、非麻痺側の筋力は十分に保たれており、高次脳機能障害はあるものの自己修正可能であった。そのため、杖使用と装具装着下であれば歩行獲得は可能であると考え、また更衣、トイレ動作等の身辺動作も自立可能になると判断した。理学療法の方針とプログラムは、装具装着下での歩行獲得を目標とし、再び長下肢装具を使用した立位・歩行訓練を中心にリハを開始していった。
【説明と同意】 発表にあたり症例およびご家族に説明し、同意を得た。
【結果】 リハ開始約2週後で長下肢装具から短下肢装具へ変更。短下肢装具による訓練開始時は、装具の足関節を底屈位として膝をロッキングさせ歩行訓練を実施。膝の安定性の改善にあわせて、装具の足関節を中間位に戻し歩行訓練を継続した。3週間目には家人での介助歩行も可能となり、起立・歩行能力の改善にともない、ベッド周囲でのADLが自立した。2カ月後には、短下肢装具と4脚杖使用下で歩行自立となり、その後、屋内用としてシューホンブレースを作製し、約4カ月で自宅復帰に至った。
【考察】 本症例は、歩行困難な片麻痺患者に特徴的な、意識障害、非麻痺側の筋力低下がないにも関わらず歩行獲得に至っていなかった。これは、下肢装具を用いた積極的な歩行訓練を継続して行えなかったことが大きな要因の1つと考えられた。当院に再入院後、装具の調整を行いながら歩行訓練を積極的に行ったことが、歩行の獲得、ADLの改善に繋がり、ついで在宅復帰にまで至ったと考えられる。本症例において、早期からの下肢装具を使用した歩行訓練を継続していれば、歩行獲得までの期間は短くなっていた可能性は十分にある。
装具使用について拒否的なセラピストがいることは事実であり、それらの主義主張もある特定の症例には有効であると理解している。しかし、現行のリハでは麻痺の改善は困難であり、片麻痺による歩行困難症例の歩行獲得には装具が必要である。今回のような事例がおこらないために装具療法を含めた、ある程度の訓練プロセスの構築、および徹底が必要と思われる。
【理学療法研究としての意義】 我々は患者のニードを踏まえて、医学的情報を基に、可能な限りのADLを獲得させることが仕事である。多くの場合、入院期間中に歩行能力を改善させなければ、車いす生活かベッド上生活となる。昨今の医療現状は厳しく、入院期間のさらなる短縮が求められている。この限られた期間で患者および家族の生活を第一に考えたリハ成果を出すには、装具療法の重要性を再度、認識する必要がある。
著者関連情報
© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
前の記事 次の記事
feedback
Top