抄録
【目的】近年、バーチャルリアリティ技術を応用したリハビリテーション(Game Based Exercise:GBE)の研究が注目されている。Youら(2005)は、慢性期脳卒中患者に対するGBEで、一次運動感覚皮質の有意な活動増加と運動機能の改善を報告している。また、Saposnikら(2010)は慢性期脳卒中患者に対するGBEで、Wiiを使用することの安全性とリハビリテーション介入としての実行可能性を報告している。我々もこれまでにGBEの効果検証を行い、その特異的効果を明らかにしてきている(第46回日本理学療法学術大会:2011)。これまでの我々の先行研究では,歩行軽介助レベルから屋外歩行自立レベルまで様々なパフォーマンスレベルの患者に適応しており、歩行自立度の違いとGBEの効果の関係を明らかにするには至っていない。そこで、本研究では、機能的歩行自立度(Functional Ambulation Classification:FAC)が2(軽介助)レベルの患者に対して、バランス能力や歩行能力におけるGBEの効果を検討したので報告する。
【方法】研究参加に同意し、FAC2(軽介助)でWii Fit(任天堂)のゲーム内容を理解し、実施可能であった当院回復期リハビリテーション病棟入院中の患者9名(男性4名、女性5名、平均年齢75.2±10.7歳)を対象とした。介入群と対照群の2群へ無作為に対象者を割り付けた。介入群では、通常のリハビリテーション(通常リハ)の中で、GBEとしてバランスゲームによる介入を行った。GBEはWii Fitのバランスゲーム「コロコロ玉入れ」、「ペンギンシーソー」等を用い、1日20分以上の介入を2週間実施した。必要に応じて、前方に設置した椅子の背もたれを把持させるなどの物的介助も併せて適応した。研究期間は4週間とし、介入群では前半2週間に通常リハの中でWii FitによるGBEを実施し、後半2週間では通常リハのみを実施した。対照群は通常リハを4週間実施した。評価項目は、バランス能力としてFunctional Balance Scale(FBS)、歩行能力としてFAC、Wii Fitの満足度評価としてVisual Analog Scale(VAS)を用いた。VASは11段階にて、Wii Fitの楽しさ(0:全く楽しくない~10:とても楽しい)、継続(0:絶対にやりたくない~10:必ずやりたい)を評価した。評価時期は、研究開始時(初期評価)、2週間後(中間評価)、4週間後(最終評価)とした。VASは介入群の中間評価時のみ評価した。本研究では初期評価の値を基準とした中間,最終各評価時、中間評価の値を基準とした最終評価時のFBS,FACの値の変化量を比較した。
【説明と同意】対象者には、書面と口頭にて十分に研究内容を説明し、書面にて同意を得た。
【結果】全対象者ともに、安全にGBEを実施可能であった。FBSの変化量について、介入群では初期中間評価間で7.8±5.2,中間最終評価間で3.4±2.7,初期最終評価間で11.2±6.0、
対照群では初期中間評価間で2.5±5.3,中間最終評価間で1.3±2.8,初期最終評価間で3.8±5.6であった。FACの変化量について、介入群では初期中間評価間で1.0±0.7,中間最終評価間で0.6±0.6,初期最終評価間で1.6±0.6、対照群では初期中間評価間で0.3±0.5,中間最終評価間で0.3±0.5,初期最終評価間で0.5±1.0であった。
FBS・FACは全評価間を通して、介入群・対照群ともに改善傾向が見られ、介入群は対照群より改善傾向が見られた。中でも、介入群の初期中間評価間で大きな改善傾向が見られた。(初期中間評価間での介入群と対照群間の差:FBS 5.3,FAC 0.7、中間最終評価間での介入群と対照群間の差:FBS 2.1,FAC 0.3)Wii Fitの満足度において楽しさに関するVAS:8.6±1.7、継続に関するVAS:7.2±2.6であった。
【考察】 本研究のGBEでは主に視覚や聴覚からの即時的でリアルタイムなフィードバックにより、立位における同一支持基底面内での重心移動課題を要求される。これらの反復運動により姿勢制御における運動方向・量を学習し、ボディイメージを再構築する事で、歩行時の重心移動や立位バランスに影響を及ぼしているのではないかと推測する。また、介入群の全対象者がGBEを意欲的に施行可能であったことから、注意の持続性向上に伴い、姿勢制御における学習の促進が見られたのではないかと推測する。介入終了後2週間は、介入時より劣るがGBEによる学習の効果の持続が見られたのではないかと推測する。
【理学療法研究としての意義】GBEは,歩行が不安定で軽介助を要し、転倒リスクの高い高齢者においても意欲的に安全に実施可能であり、バランス能力や歩行能力を向上させる可能性が示唆された。今後は、さらに症例数を増やし、FAC別や疾患別によるGBEの有用性を明らかにし、新たな治療手段として臨床応用の可能性を検討していきたいと考える。