抄録
【目的】
近年、膝前十字靭帯(以下 ACL)の損傷予防を目的に、損傷のリスクが大きいジャンプ着地時のバイオメカニクス的側面からの研究が行われている。それらの報告によるとジャンプ着地時のアライメントが膝関節軽度屈曲、膝関節外反、外旋位であると受傷する危険が多いとされている。膝関節周囲筋機能については、大腿四頭筋の収縮はACLの張力を高め、ハムストリングスの収縮はACLの張力を減弱させる機能を持つ。特に女性ではジャンプ着地時の筋活動について、大腿四頭筋に対するハムストリングスの筋活動が男性に比べ低いとの報告がある。また神経筋コントロールの限界を補うものとして、前活動という機能がある。片脚着地時の膝関節の前活動について、内外側ハムストリングスの筋活動は接地前50ms前後でピークを迎えるが、大腿直筋は接地後80msでピークになったと報告されている。そこで本研究の目的は、前活動中の筋活動がピークとなる時間に着目し、ジャンプ着地前の筋活動ピーク時間と、着地後の膝屈曲角度との関係を調査することとした。
【方法】
対象は大学バスケットボール部に在籍中の健常女性14名とした。いずれの対象も、下肢および腰部に整形外科疾患がなく、着地動作時に疼痛などがない者とした。着地動作は、高さ30cmの台から落下し、床反力計に片脚で着地するものとした。ジャンプする際、身体の位置が上方へ跳び上がらないように注意し、前方へ落下させた。片脚着地動作に使用した脚は非利き脚とした。本研究の対象者は全員が右利きであり、被験側は左脚であった。測定回数は3回行った。筋活動の測定には筋電図システムを用いた。被験筋は左下肢の内側広筋、外側広筋、半腱様筋、大腿二頭筋とし、電極を貼付し固定した。筋電図の解析は、ジャンプ着地する0.2秒前の期間で、筋活動がピークとなる時間を求めた。ジャンプ着地は床反力計の垂直方向成分が増加しはじめた時期とした。着地動作における膝関節角度の測定には、三次元動作解析器を使用した。反射マーカーを両面テープにより左脚の大転子、膝関節裂隙、外果に貼付した。膝屈曲角度は着地後0.2秒間の平均角度とした。統計学的解析は、着地0.2秒前の各筋の反ピーク時間と着地時の膝屈曲角度の相関を求めた。各相関はPearson相関係数を求め,危険率を0.05未満で有意とした。
【説明と同意】
本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H21-2)を得て行った。被験者に対し研究の説明を行い、同意を得られた者のみデータを採用した。
【結果】
着地前0.2秒間の筋活動量がピークとなる時間は、内側広筋は着地19.9 ± 16.0ms前、外側広筋は着地36.6 ± 26.1ms前、内側ハムストリングスは42.1 ± 30.3ms前、外側ハムストリングス36.2 ± 23.4ms前であった。着地時の膝屈曲角度は33.4 ± 4.8°であった。ジャンプ着地前の筋活動ピーク時間と着地後の膝屈曲角度の相関は、内側広筋でr = 0.343,p = 0.230、外側広筋r = -0.541,p = 0.046、内側ハムストリングスr = 0.560,p = 0.037、外側ハムストリングスr = 0.657,p = 0.011であった。
【考察】
着地前の筋活動ピーク時間と、着地時の膝屈曲角度に、内側、外側ハムストリングスで正の相関が得られ、外側広筋で負の相関が得られた。内側広筋では有意な相関は得られなかった。内外側ハムストリングスの筋活動は接地前でピークを迎えると報告されており、本研究結果でハムストリングスの筋活動ピークが速ければ速いほど、着地時の膝屈曲角度が大きくなるということより、ハムストリングスはジャンプ着地動作では予測制御としての役割が重要なのではないかと考えられる。一方、女性では着地時の膝関節外反角度が大きく、内側広筋の活動が低いとの報告がある。また本研究で有意な相関が得られなかったことから、内側広筋は着地時の姿勢制御に重要な役割を持っていると考えられる。外側広筋は着地前の筋活動ピークが遅いほど膝屈曲角度が大きくなることより、予測制御、姿勢制御の両方の役割を持つのではないかと考えられる。またトレーニングにより、前活動の起こるタイミングが早くなるとの報告もある。よって、ハムストリングスの前活動のピーク時間を早めることが可能であれば、特にハムストリングスの筋活動が低いといわれる女性のACL損傷も予防できるのではないかと考えられる。
【理学療法研究としての意義】
着地時の膝屈曲角度を大きくさせるためには、ハムストリングスの着地前の筋活動ピーク時間を早めることが必要であると示された。ACLの損傷予防には筋活動だけではなく、着地前の筋活動ピーク時間にも注目する必要があるということが示唆された。