近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 91
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回復期脳卒中片麻痺患者の血管機能の長軸的変化
*千葉 達矢生野 公貴中村 潤二徳久 謙太郎庄本 康治
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抄録
【目的】動脈硬化は心筋梗塞や脳梗塞など、日本人の死亡原因の多くを占める疾病の原因の1つである。血管内皮機能は動脈硬化の発生に関連する因子であり、血管内皮機能障害は冠動脈疾患や脳血管障害発症の危険性が高まるとされている。Stenborgらは脳卒中患者の血管内皮機能は健常者に比べ低下していると報告しており、脳卒中患者は脳血管障害再発などの危険性がある。そのため、脳卒中患者の血管内皮機能に着目する必要があるが、脳卒中患者の血管内皮機能に対する報告は少なく、長軸的に観察した報告やリハビリテーションによる効果の報告も少ない。そのため、今回は回復期脳卒中患者の血管内皮機能を3ヶ月間評価し、長軸的な変化を調査することを目的とした。
【方法】対象は当院回復期リハビリテーション病棟に入院している脳卒中片麻痺患者5名(年齢67±7.4歳)とした。機器はD.E.Hokanson社製のマーキュリーストレンゲージ、フォトプレチスモグラフEC5R、ラピッドカフインフレータ E20を使用した。血管内皮機能測定は安静時の前腕の血液流入量を前腕部に巻きつけたマーキュリーストレンゲージで前腕膨隆の変化を読み取り、マーキュリーストレンゲージと接続されているフォトプレチスモグラフにて測定した。次に、反応性充血後の血流量を測定するために、上腕に巻いた駆血帯を最高血圧より50mmHg高い圧で5分間駆血した後、駆血を急激に開放し、駆血開放直後から15秒毎に150秒間、血流量を測定した。測定は1ヶ月毎に3ヶ月間左右上肢で行い、測定項目は安静時血流量への回復時間である反応性充血持続時間と、安静時血流量と反応性充血後の最大血液流入量の変化率である反応性充血最大血流変化率とした。また上肢のBrunnstrom recovery stage(BS)、上肢のFugl-Meyer運動機能項目(FM)、Barthel Index(BI)を1ヶ月毎に3ヶ月間評価した。
リハビリテーションは関節可動域練習、筋力増強練習、動作練習等をPT、OTにて月に平均46.5±10.2時間行った。
【説明と同意】本研究は病院長、主治医、所属部長の承諾を得て実施した。また、被験者には調査内容を十分説明し、書面にて同意を得た。
【結果】脳卒中片麻痺患者の麻痺側の平均反応性充血持続時間は1ヶ月毎に71.8±8.6秒、80.6±7.5秒(1ヶ月目と比べ1.13倍)、83.5±8.1秒(1.18倍)、非麻痺側は74.6±1.5秒、87.3±2.7秒(1.16倍)、92.2±2.5秒(1.2倍)とそれぞれ改善傾向を示した。反応性充血最大血流変化率も麻痺側が1ヶ月ごとに8.2±1.8倍、8.2±0.8倍(0.99倍)、9.0±1.1倍(1.09倍)、非麻痺側が8.9±1.5倍、10.7±2.7倍(1.2倍)、11.0±2.6倍(1.24倍)とそれぞれ改善傾向を示した。BS、FM、BIもそれぞれ改善傾向を示した。
【考察】Billingerは脳卒中片麻痺患者に対する膝関節の屈伸運動が血管の直径と血流を変化させると述べており、Frederickは脳卒中片麻痺患者に対するトレッドミル運動が血管内皮機能を改善する可能性があることを報告した。また、後藤は運動による血流量の増加が血管にシェアストレスを生じさせ、血管内皮細胞を活性化すると述べている。本研究の対象者は回復期リハビリテーション病棟に入院中の患者であるため、日々の運動療法によって血流量が増大し、血管機能が改善された可能性が考えられる。
また、反応性充血最大血流変化率は非麻痺側が1ヶ月目から3ヶ月目にかけて1.24倍改善しており、麻痺側の1.09倍に比べ大きく改善していることからも、運動量の多い非麻痺側のほうがより高い改善を示した可能性が考えられる。
BS、FM、BIもそれぞれ改善していることから、運動機能や動作能力の改善が運動量を増大させ、血管機能の改善に寄与した可能性が考えられる。
【理学療法研究としての意義】今回、少数ではあるが回復期脳卒中片麻痺患者の血管機能の変化を観察できたことから、今後様々な理学療法介入による血管機能の変化との比較対象となることが考えられる。
理学療法は脳卒中患者の再発予防等の観点から血管内皮機能に着目する必要があるかもしれない。
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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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