抄録
【目的】任天堂WiiFit発売後、理学療法士の間でも研究発表が報告されてきているが、その内容はバランス訓練や重心測定機能についての報告がほとんどである。下肢骨折後の長期免荷期間を要した患者から、荷重に対する不安や真っ直ぐ立てているのかわからないなどといった訴えを聞く機会があった。今回、WiiFitゲーム(以下Wii)は自主トレーニングなどにも応用でき、下肢長期免荷患者や下肢運動器疾患を呈した高齢者など、比較的対象者に制限なく行うことのできる荷重訓練として有用ではないかと考え、検討することとした。
【方法】対象は健常成人20名(男性14名、女性6名、年齢21~42歳)とし、無作為にWii実施群10名、コントロール群10名に分類した。実施するWiiの種目は側方への重心移動でゲームを遂行していく「ヘディング」を採用し、実施時間は10分間とした。Wii実施群では重心動揺計にて開眼静止立位での重心動揺測定および側方リーチ(以下リーチ)でのリーチ距離を評価した後Wiiを実施し、その後再度評価を行った。コントロール群では同様の評価を行った後、10分間安静坐位をとり、その後再評価を行った。Wii、重心動揺測定、リーチ全てにおいて、WiiFitバランスボードの立ち位置に合わせた足幅で足部の位置を統一した。重心動揺測定では左右の動揺の指標となるX軸平均中心偏位(以下X偏位)を採用とし、基底面の中心点から重心位置の偏位量を比較するために、データは絶対値とした。分析にはウィルコクソンの符合順位和検定(有意水準5%)を用いた。
【説明と同意】対象者には本研究の目的を説明し、同意を得て実施した。
【結果】全てのデータの内、外れ値検定にて該当した1名を除いたWii実施群9名、コントロール群10名の結果を有効とし、比較・検討を行った。Wii実施群において、Wii前後のX偏位の差は平均0.84から0.54となり有意差を認めた(p=0.044)。またリーチでは左右ともにリーチ距離において有意差を認めなかった。コントロール群においてはX偏位の差、リーチ距離に有意差を認めなかった。
【考察】X偏位は左右への重心動揺の評価に使用される。Wii実施群にてWii実施前後で有意差を認めた。これは、静止立位で片側に偏位していた重心位置がWii実施により偏位が減少し中心点に近づいたということになる。藤澤らの研究では、連続的な左右重心移動動作において、大殿筋、中殿筋、大腿筋膜張筋、内側広筋、ヒラメ筋で筋活動が認められると述べられている。Wii実施において連続的な左右重心移動動作が実施され、左右への重心移動を行い荷重したことにより、下肢の筋収縮が促通され側方への動揺が減少したと考える。またWii実施中に左右への重心移動を行うことで、静止立位時に荷重が行いにくい方向への荷重量が増大し、片側への偏位が減少したことにより、重心が中心点に近づいたと考える。これらは、片側に偏ることなく両下肢で均等に支持できるようになったことを表しているではないかと考える。リーチにおいては左右それぞれの移動距離には有意差を認めなかった。側方リーチにおいて高齢者では骨盤の側方移動でリーチ距離を拡大させようとし、足圧中心や重心もリーチ側に移動するが、若年者では体幹側屈を利用した胸郭の側方移動でリーチ距離を拡大させようとし、足圧中心や重心の移動も少ないとの報告もある。今回の対象者は健常成人であり、胸郭の側方移動でリーチを行ったため荷重の影響が少なく、リーチにおけるWii実施前後での有意差がなかったのではないかと考える。しかし、今回の研究ではリーチにおいて胸郭や骨盤の移動距離は測定していないため、今後の課題である。また、今回使用したゲーム「ヘディング」は動作スピードが速いため、下肢運動器疾患を呈した高齢者には難易度が高い可能性がある。ゲーム内容に関しては、実際に運動器疾患患者において実施していくことで選択していく必要がある。
【理学療法研究としての意義】今回の研究において、Wiiの利用により左右への荷重、筋収縮を促通することができる可能性が示唆された。運動器疾患患者においては、急性期の疼痛などにより荷重が遅延する症例や、長期の免荷を要する患者については、外来での理学療法が主体になる場合が多い。実際に運動器疾患患者において有用となれば、余暇的にかつ自主トレーニングとしても実施できると考える。そこで、本研究後に数名の運動器疾患患者を対象としてWiiでの訓練を実施したところ、静止立位に関して同様の傾向が認められている。これらを踏まえて、評価方法や実施内容を再検討しさらなる研究を進めていきたい。