抄録
【目的】
近年,脳機能イメージングの発達により呼吸困難と脳活動の関係をpositron emission tomography;PETやfunctional magnetic resonance imaging;fMRI,near infrared spectroscopy;NIRSを用いて検討した報告がなされている.しかし,これらの研究の対象は,ほとんどが若年健常者であり慢性閉塞肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)など疾患を有する患者を対象とした研究はほとんどされていない.今回, COPD患者における労作時呼吸困難(DOE)と大脳皮質活性の関係を検討することを目的とした.
【方法】
対象はCOPD患者10名(69±2歳),コントロール群(年齢をマッチさせた呼吸器疾患の既往のない高齢者)9人(70±3歳),前例男性とした.
方法は,まず,自転車エルゴメータでのランプ負荷法(20w/分)により最大仕事量(ワット)を測定した.次に,50%最大仕事量に負荷強度を設定し,6分間の定常負荷運動を実施した.コントロール群においてもCOPDと同等の呼吸困難を誘導するため,6分間の定常負荷運動中の2~4,4~6分に呼気抵抗(5,10cmH2Oの2段階)を負荷した.定常負荷運動中に,大脳皮質活性の測定(Oxy-Hb濃度長変化),呼吸困難を計測した.
大脳皮質活性の測定には,光トポグラフィ装置(株式会社日立メディコETG-7100)を使用した.前頭葉,頭頂葉を覆うように3つのプローブを使用し70チャンネルで計測した.コントロール群に対して負荷した呼気抵抗は,Respironics社製のThreshold○Rを用いた.DOEの測定は,修正Borgスケールを用い1分毎に測定した.脈拍数・経皮的酸素飽和度の計測は,NELLCOR社製OXIMAXRN600X○Rを使用した.
統計処理として,Oxy-Hb濃度長変化の比較は,反復測定による2元配置分散分析を実施し,対応のないt検定使用した.大脳皮質活性とDOEの関係を検討するために,Pearsonの相関係数を用いた.すべての統計解析は,有意水準を5%未満とし,統計解析にはPASW Statistics 18.0を使用した。
【説明と同意】
全対象者に対して事前に本研究の目的と内容を口頭,文書にて説明し,研究協力への同意を得て実施した.本研究は,近畿大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した.承認番号20-58.
【結果】
定常負荷運動中のDOEを示すBorgスケールはCOPD群で1.3±0.4,1.8±0.4,2.2±0.4,2.5±0.5,2.9±0.6,3.4±0.8,コントロール群で0.7±0.2,1.3±0.4,2.5±0.4,2.7±0.5,3.6±0.6,3.6±0.6であり各時間において両群に有意差を認めなかった.1~6分間のOxy-Hb濃度長変化はCOPD群で0.001±0.007,0.030±0.038,0.063±0.029,0.116±0.039,0.205±0.062,0.264±0.473,コントロール群で0.005±0.002,0.046±0.054,0.116±0.044,0.222±0.054,0.366±0.077,0.532±0.098であった.COPD群,コントロール群ともにBorgスケールと前頭前野領域のOxy-Hb濃度長変化との間に有意な相関関係が認められた(r=0.6,r=0.7,p<0.001).しかし、COPD群の前頭前野領域のOxy-Hb濃度長は,運動開始後6分においてのみコントロール群に比較して有意に低値を示した(p<0.05).
【考察】
呼吸困難には,大脳辺縁系や扁桃体,視床,島皮質,前頭前皮質などが関与しているとfMRIやPET,NIRSで報告されている.コントロール群に,呼気抵抗を負荷することによりCOPD群と有意差のないDOEを誘発することが可能であった.CPD群,コントロール群ともにDOEを表すBorgスケールのスコアと前頭前野領域のOxy-Hb濃度長変化に有意な相関関係を認めた.前頭前野領域は,大脳辺縁系の活動を制御,抑制し,密接な線維連絡を有すると報告されていることから,呼気抵抗負荷に伴うDOEの増加が大脳辺縁系の活性化に引き続いて,前頭葉領域の活性化につながったと考えられる.また,定常負荷運動開始後6分において,前頭前野領域のOxy-Hb濃度長変化はCOPD群がコントロール群に比較して有意に低値を示した.コントロール群は,日常生活でDOEを自覚することがほとんどなく,COPD群に比べ大脳辺縁系の活性を前頭前野領域が強く制御していたことが推察される.逆にCOPD群では,日常の生活で低酸素血症にさらされる機会があり,前頭前野領域の活動が低いために抑制が効きにくいということも考えられる.
【理学療法学研究としての意義】
COPD患者の多くは,DOEにより日常生活を大きく制限される.現在,呼吸困難を評価するスケールには,主観的評価しかなく客観性に乏しい.本研究の発展により,呼吸困難が大脳皮質の活動に与える影響を明らかにし,呼吸困難をとらえる客観的指標の開発につながると考える.