近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 98
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NST介入症例における栄養指標と機能改善について
*八上 里菜岸上 佳代(OT)草野 由紀(ST)芳野 宏貴岡村 孝文千葉 一雄山口 明浩(MD)
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キーワード: 栄養状態, 機能改善, NST
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抄録
【はじめに】
 近年,NST活動が広まりリハビリテーション(以下リハ)を施行する上でも栄養管理を行うことが重要視されている.血清アルブミン(以下ALB)は,一般的に栄養指標とされるが,半減期が20日間で急性期の栄養評価を行うには不十分である.それに対して,プレアルブミン(以下PA)は半減期が2日と短く,急性期の栄養評価に適している.
 若林らによれば,ALB3.0g/dl・BMI18.5以上が機能改善の目安とされ,高度栄養障害にあっても,改善中であれば機能改善も見込まれるといわれている.しかし,重症例における確立された栄養指標はまだない.今回NSTとして介入することになった症例のALB・PA・動作能力を比較して,PAが機能改善を示唆する新たな栄養指標となる可能性が示された一例を報告する.
【説明と同意】
 症例発表については,本人・御家族に趣旨を説明し同意を得た.
【症例紹介】
 大動脈弁狭窄症により,他院でAVRを施行した79歳男性.術後2度挿管となり気管切開し発話は困難であった.約2ヶ月間の臥床を経て当院へリハ目的で転院.その期間は経鼻栄養を施行.リハ開始と同時にNSTも介入.開始時,体重:47.3kg(当院外来通院時68kg)BMI:15.3 基礎エネルギー消費量(以下BEE)は1032kcal ALB:2.4g/dl PA:6.5mg/dlで高度栄養障害を示しCRP:6.71であった.また全身持久力は,心機能が正常にも関わらず著明に低下していた.MMTは上肢3下肢2.活動レベルは,ベッド上でBI:0点であった.
【経過】
 リハ開始~4w:経鼻栄養+嚥下食_I_~_III_(約800kcalで必要カロリー(以下TEE)の70%で過不足-335kcal)摂取し,筋力増強・坐位訓練のみ実施.臥位Pulse(以下P)80bpm→坐位で120bpmまで上昇.EF値:70%
5w~9w:普通食1/2量~全量(800~1312kcal でTEEの70~115%過不足-335~181kcal)を摂取し,立位・平行棒内歩行訓練を実施.臥位P90bpm→坐位106bpmまで上昇.
10w~15w:普通食全量+主食増量(1852~2036kcalで TEEの161~187%過不足+707~726kcal)を摂取し,ステッキ歩行・ADL訓練を実施.臥位P88bpm→歩行20mで130bpmの状態から連続歩行30mでもP116bpmと変化した.EF値は66%であった。
退院時は,体重:52kgBMI:17.8上下肢MMT4+で階段昇降・病棟歩行が可能となり,自宅退院に至った.
【結果】
 リハ開始時~4wは,ALB2.4g/dlから変化せずPA6.5 mg/dl→10.1mg/dl.BI:15点.
5~9wは,ALB2.7g/dlから変化せずPAは11.5 mg/dl→14.4mg/dl.BI:40点.
10~15wは,ALB2.8 g/dl→3.1 g/dl PA:15.1 mg/dl→18.1 mg/dl.BI:90点.
 ALBは,3.0g/dl以上となるには10週以上期間を要した.PAは5週程度で軽度障害レベルとなりそれに伴って,動作能力の改善が大きく見られた.また摂取カロリーがTEEを上回ったのも5週目以降であった.
【考察】
 結果より一連の改善過程は,PAから始まり次に動作能力,最後にALBの改善が見られることがわかった.そのため,ALBは急性期において機能改善の指標とはならないことが示唆された. PAが改善してもすぐに動作能力が改善しなかった原因は,術後の臥床による著明な体重減少と筋蛋白崩壊があった事や,リハ開始後4週間程,CRP値が平均3mg/dl程度あり,エネルギー代謝が異化にあったためと推測できる.
 5週以降の動作能力の改善は,摂取カロリーがTEEを上回ったことと,PAが更なる改善を示したことより,蛋白合成が促進したことが要因と考えられた.ここではPAが摂取カロリーに合せて蛋白合成を反映したと考えられる.よってPAは,動作能力の改善を示唆する新たな栄養指標となる可能性があることが示された.
 今後は,症例数を増やしPAの機能改善の目安を検証していく必要があると考える.
【まとめ】
 リハを施行する上で,ALB3.0g/dlを機能改善の目安になるといわれているが重症な患者ではその条件を満たさない事が多い.その場合,本症例ではPAが機能改善の目安になる新たな栄養指標となる可能性があると示唆された.
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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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