抄録
トリポード配位子は、様々な配位性基の導入が容易であり、金属錯体の構造だけでなく機能までも設計・制御することができる。演者らは先に、トリポード配位子を含むユーロピウム錯体が、溶液中でアニオン種と選択的に高配位錯体を形成し、可視領域での長寿命発光特性を大きく変化させることを見い出し、光アニオンセンシング系の構築へと展開した。本報では、キノリン環とアミド構造とを含む複合型トリポード配位子を系統的に合成し、これらのユーロピウム錯体が示すアニオン認識・発光応答機能を検討した。合成したユーロピウム錯体は、塩化物イオンや硝酸イオンの添加によって希土類発光強度の著しい増大を示した。さらに不斉置換基をトリポード配位子に導入すると、ユーロピウム錯体の発光強度は、他のアニオン種の添加時と比較して、塩化物イオン選択的に10_から_50倍も増大した。これらの結果は、トリポード配位子の構造修飾を通じて、希土類錯体のアニオン光応答機能をチューニングできることを示し、アニオンセンシング系の開発に新たな指針を与えるものとして注目される。