2017 年 65 巻 8 号 p. 237-243
地球近傍の軌道間輸送はこれまで化学推進が唯一の選択肢であったが,電気推進の実用化が進むとともに,大電力衛星バスの普及によって十分な電力を確保することが可能となったことから,電気推進を人工衛星の位置や姿勢制御ばかりでなく,軌道移行にも用いる全電化推進が現実のものとなってきている.本稿では,全電化推進を用いたミッションの具体例として,今後も輸送需要が見込まれる静止衛星の軌道投入をはじめ,日本独自のシステムである準天頂衛星や射点の制約からドッグレッグターンをせざるをえない太陽同期軌道への衛星投入を扱った.また,大量の物資の輸送が必要となる宇宙太陽発電衛星の構築について,全電化することによる輸送コストの低減効果の評価を行った.全電化推進は必ずしも短期間の軌道間輸送には向いていないが,適切な条件設定によって,化学推進を単独で用いるよりも大きなメリットをもたらすことが期待できる.