近年,柔軟な展開構造物を大気圏突入機のエアロシェルとして利用する技術が注目を集めており,世界各国で盛んに研究開発が行われている.ロシアでは火星突入プローブとして,欧州ではISSからの帰還システムとして,米国では火星表面への大量輸送システムへの応用を想定した開発が行われているなど,多くのプロジェクトが進められている.一方,国内では,小型の惑星プローブや地球帰還システムへの応用を想定し,欧米とは一線を画した独自の展開型柔軟エアロシェル技術を成熟させてきた.展開型柔軟エアロシェルのメリットは,軽量かつ大型のエアロシェルを大気圏突入機に取り付け,機体の弾道係数を下げることで,空気力を効率よく利用し,低密度環境でも減速が可能になることである.そのため,大気圏突入機の最大の技術課題である空力加熱を低減することができ,同時に,終端速度も下げることができるため,軟着陸用のパラシュートを兼ねたシステムを実現できる.本稿では,国内における大気圏突入用の展開型柔軟エアロシェルの開発の経緯,および,その展開構造物としての技術的課題に対する取り組みについて報告する.
地球近傍の軌道間輸送はこれまで化学推進が唯一の選択肢であったが,電気推進の実用化が進むとともに,大電力衛星バスの普及によって十分な電力を確保することが可能となったことから,電気推進を人工衛星の位置や姿勢制御ばかりでなく,軌道移行にも用いる全電化推進が現実のものとなってきている.本稿では,全電化推進を用いたミッションの具体例として,今後も輸送需要が見込まれる静止衛星の軌道投入をはじめ,日本独自のシステムである準天頂衛星や射点の制約からドッグレッグターンをせざるをえない太陽同期軌道への衛星投入を扱った.また,大量の物資の輸送が必要となる宇宙太陽発電衛星の構築について,全電化することによる輸送コストの低減効果の評価を行った.全電化推進は必ずしも短期間の軌道間輸送には向いていないが,適切な条件設定によって,化学推進を単独で用いるよりも大きなメリットをもたらすことが期待できる.
宇宙機観測ミッションにおいて高感度観測を実現するキー技術の一つが機械式冷凍機であり,ミッションの高度化・長期化に伴ってその冷却性能・信頼性の向上が求められている.現存する国産の宇宙用機械式冷凍機として,1段スターリング冷凍機(冷却温度レベル:50~80 K),2段スターリング冷凍機(冷却温度レベル:20 K),4K級ジュールトムソン冷凍機がそれぞれ開発され,地球・天文観測ミッションに搭載されて軌道上運用実績を積み重ねてきた.また,次世代ミッションに向けて,これまで超流動液体ヘリウムによる寒剤冷却で達成していた低温度領域を実現するための1K級ジュールトムソン冷凍機や希釈冷凍機圧縮機の研究開発を実施してきた.本稿では,国内の宇宙用機械式冷凍機に焦点を当て,その開発状況や軌道上運用実績,次世代機に向けた研究課題などについて紹介する.