抄録
古くからグリコゲンの染色にはBest氏カルミン染色が、粘液染色にはムチカルミン染色が使用され今日に至つた。然るに1933年にBauerによつてグリコゲンを含む多糖類の組織化學的證明法が發表され、この方法を用いる學者も多くなつた。Bauer自身はこの方法によつて多糖類のみが染色され粘液は染まらないと述べているが、その後Järvi Gendre Seelinger Hintzsche und Anderegg Wallraf und Beckert等によつて粘液も染まることが種々の細胞に於て證明されClaraはBauer氏法による粘液染色を推賞している。
吾々はBauer氏法を早くから使用して來た (伊東 Ito und Nagahiro, Ito und Mizutan) が、日本ではこの方法はあまり顧られなかつたようである。この方法の最もよい点はグリコゲンや粘液が鮮かな紅紫色に染まるために、鐵ヘマトキシリンの後染色を施して糸粒休 (ミトコンドリア) 等を同時に染色出來ることである。Bauer氏法はFeulgen氏核反應の1定規塩酸で60℃に保って加水分解を行う所をクローム酸作用に代えただけである。核反應では塩、酸による加水分解によつて核酸のプリンのアルデヒードが遊離し、これにFeulgen氏試藥 (Schiff氏試藥) が作用して紅紫色の呈色反應がおこるのであるが、Bauer氏反應でも恐らくクローム酸の酸化作用によつて同様にアルデヒード反應がおこるものと考えられる (Bauer) 。從つて又Feulgen-Bauer氏反應とも呼ばれる。所が1946年 (昭和21年) にMc Manusによつて過沃素酸HIO4を使用する方法 (Periodic acid Schiff reaction, P.A.S.法) が發表された。これはBauer氏反應のクローム酸を過沃素酸でおきかえた方法で、終戦後吾國に紹介され最近では廣く使用されている。Lillieはこれとは獨自に硝酸を加えて酸性としたメタ過沃素酸ソーダ (Sodium metaperiodate NaIO4) を過沃素酸の代りに使用する方法を發表した。吾國では日比野、安間、小野がLillieの方法を血液細胞の多糖類の染色に用いた。
最近清水、熊本は四醋酸鉛-フクシン亜硫酸法による多糖類の證明法を發表した。
吾々は從來使用して來たBauer氏反應を更に檢討すると共に過沃素酸加里を使用する方法について報告し、この方法とBauer氏反應とを比較して見たい。