日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K6-14
会議情報

沖積層広域地下水ヒ素汚染の機構解明:鉄還元バクテリア,重炭酸イオン,マイカの意義
*赤井 純治ホサイン アナワール長沼 毅兼清 温子菱田 直人福原 晴夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

バングラデシュなどアジアにおける沖積層広域地下水ヒ素汚染は基本的には自然的な過程で発生している特徴がある.バングラデシュの汚染地下水の一般的な特徴は高濃度ヒ素( > 0.05 ppm : バングラデシュ基準値)の他に,2価鉄(数~10 ppm以上),アンモニア(数~17 ppm),リン酸イオン(数ppm~),重炭酸イオンが高濃度(300~500ppm )である.この地下水ヒ素汚染の機構解明の現段階,どこまでわかってきたかをまとめ,さらにここでは,ヒ素溶出要因としての,1)重炭酸イオンの役割,2)バクテリアのヒ素溶出へのかかわり,その遺伝子解析による特徴の解明,3)マイカのヒ素汚染問題への係わりの3点について,データに基づいてふれる.
 従来,酸化的溶出とする説(e.g., Chakraborti et al.,2001) と還元的環境で溶け出す(e.g.,Nickson et al., 1998)という2つの説が代表的なものとしてあるが,還元的条件で溶解することは,すでに実験的に証明した(Akai et al.,2002).堆積物中のヒ素の存在形態は酸化物態,有機物態,難溶態と多様で,一般に有機物層に全ヒ素は高濃度である(赤井他,2000).さらに, 1).重炭酸イオンに着目して,これを用いた溶出実験を行い,バングラデシュコア試料からヒ素がより溶出することを確かめた.2)またバクテリアの働きで,バングラデシュコア試料からヒ素が溶出することは示してきた(Akai eta l, 2002; 赤井他,2003)が,今回はより多様な物質(N,P等肥料,生活汚水,グルコース,ポロペプトン等)につき行った結果を示す.グルコース添加の培養産物で,ヒ素を溶かしだすのに積極的に働いたバクテリアの遺伝子解析を行った.抽出したDNAから系統分類用の遺伝子(16SrDNA)をPCR反応を用いて増幅し,TOPO TA Cloning Kitを用いてpCR2.1TOPO(vector)の中に組み込み,形質転換をおこさせた.28クローンの塩基配列を読み,系統解析を行なった.塩基配列を決定したところ,5グループが確認でき,これらは全て,クロストリジウム属に分類される遺伝子であることがわかった.Clostridium beijerinckiiのある株は鉄還元をするとされるが,この遺伝子解析では特定できかったので脂肪酸分析をあわせて行った.鉄還元菌の脂肪酸マーカー(分枝一価不飽和脂肪酸)を検討した.バイオマーカー脂肪酸を元に微生物相を推定した鉄還元能をもつClostridium属にみられる脂肪酸(18;1~9cis)がグルコース添加後3日目の試料に比し,5日後の試料では100倍以上にも増加した.鉄還元バクテリアが働いている可能性が示された.3)又,最近,マイカがもともとのヒ素の要因であるとの指摘がある(Dowling, et al.,2002).筆者はそのようには考えないが,コア試料中の黒雲母を検討している中で,その劈開面に水酸化鉄のμm単位の粒子が含まれているのを観察した.一つの可能性として,風化変質過程で,鉄バクテリアが,黒雲母の劈開面等に水酸化鉄沈澱をつくり,その中で,ヒ素を吸着していたものが,地下に埋積していく中でヒ素が放出移動する可能性が考えられる.
 以上のように,堆積物で,特に含有ヒ素の絶対量が問題ではなく,いくつかの諸特徴が複合して広域の地下水ヒ素汚染が起っていると考えられる.
文献: 赤井他, 2000, 2003, 地惑;Akai et al., 2002, IMA; Chakraborti et al.,2001, Chapplle ed. As exposure and health effects,27.; Nickson et al.,1998, Nature 395, 338; Dowling, et al.,2002,Water Res.Res. 38,9,12-1.

著者関連情報
© 2003 日本鉱物科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top