日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K6-16
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レス・風成塵構成物質への多環芳香族炭化水素の吸着
*玉村 修司王 喜龍大田 由貴恵佐藤 努
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抄録
はじめに
  中国の大気汚染は、工業化の進展に伴い年々増加傾向にある。その大気汚染物質として様々なものが指摘されているが、石炭火力発電所やディーゼルエンジン車から排出される多環芳香族炭化水素(PAH)は、強い発がん性と内分泌かく乱作用(環境ホルモン作用)を有する汚染物として特に注目されている。最近、PAHが黄砂の細粒画分に濃集していることが発見され、PAHの運搬媒体としてのレスや風性塵の役割の解明が待たれている。
 黄砂を構成する物質の記載については、過去の研究で詳細に報告されてきた。構成物として、石英、長石、イライト、カオリナイト、緑泥石、方解石および石膏などが知られているほか、X線回折分析では検出できない非晶質鉄鉱物や腐食物質も黄砂に伴い飛来してくる。これらの構成物質の中で、大陸で発生したPAHを吸着し日本へ運搬する媒体を特定し、その吸着量(運搬量)や運搬過程での安定性を理解することは、黄砂による大気汚染物質の運搬と影響を評価する上で必要不可欠となる。そこで、本研究では、黄砂の構成物質とPAHとの親和性を調べるために、水溶液中におけるPAHの吸着実験を行い、それぞれの吸着特性を明らかにすることを目的とした。
吸着実験
 上記の黄砂の構成鉱物の中で、含有量の多い石英と相対的に大きな比表面積をもつイライトとカオリナイトを吸着体に選定した。また、腐食物質として土壌中に普遍的に存在するフミン酸も吸着体に選定した。PAHはベンゼン環が3つ縮合したフェナントレンを用いた。
 吸着体に用いた珪酸塩鉱物は過酸化水素処理を行い、有機物を取り除いた後でN2-BET法により比表面積を求めた。反応溶液はフェナトレンを少量のアセトンに溶かし脱イオン水を加えることにより、1.4μg/ml、0.14μg/mlおよび0.014μg/mlのフェナントレン水溶液とした。ガラス製の遠心管に各吸着体100mgと、作成された各濃度のフェナントレンの水溶液を20ml加えて密閉し、往復振盪機にて暗所、室温で72時間振盪した。その後、遠心分離器にて固液分離して上澄み液1mlを採取し、これを1mlのヘキサンに濃集させて、高速液体クロマトグラフィーによりフェナントレンの濃度を求めた。この濃度と反応溶液の濃度から、各吸着体の単位重量および単位面積あたりに吸着されるフェナントレンの重量を求め、吸着等温線を得た。
結果と考察
 各吸着体に吸着されるフェナントレンの重量はフミン酸が最も多く、1.4μg/mlの反応溶液では単位重量あたり225μg/g、単位面積あたり68.4μg/m2吸着する。珪酸塩鉱物では、イライトが単位重量あたりの吸着量が最も多く、1.4μg/mlの反応溶液ではおよそ158μg/g吸着した。各珪酸塩鉱物において単位面積あたりの吸着量はほぼ同様の値を示し、1.4μg/mlの反応溶液で0.5μg/m2以上、5μg/m2未満であった。
 吸着実験の結果から、他の鉱物に比べ、PAHの吸着体としてフミン酸が最も優れていることが示された。珪酸塩鉱物を主成分とする黄砂の中で、フミン酸は珪酸塩鉱物に付着して飛来してくることが知られており、特に比表面積の大きい粘土鉱物はフミン酸に対する表面活性が高い。PAH吸着量が大きくないことから、粘土鉱物単独ではPAHの運搬媒体として働かないが、PAHを多量に吸着するフミン酸の運搬媒体として機能するならば、間接的なPAH運搬媒体となりうる。
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© 2003 日本鉱物科学会
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