抄録
近年、地球の環境問題の一つとしてCO2の排出量に関する問題が取り上げられている。大気中のCO2濃度の上昇は地球の温暖化だけでなく、大気中のCO2と平衡にある炭酸水はpH=5.6程度とされていることから、この弱酸性溶液によっても岩石鉱物の変質が起こる可能性があると思われる。そこでCO2飽和水を用い、これまでしばしば建築用石材として使用されている岡山県笠岡市北木島産花崗岩を対象とした人工風化実験を行った。実験は現在も継続中であるが、今回は反応初期における処理時間の増加に伴うCO2飽和水中に濃集する元素の種類や濃度、および岩石表面に見られる鉱物の形態や化学変化について若干の知見が得られたので報告する。
実験は、天然の条件により近い環境下にするため、ソックスレー抽出器を一部改良した装置を用いた。抽出部に一面を研磨し、10×10×5mm大にカットした花崗岩の岩石片を50個 (65.72g) 入れ、その試料上にCO2飽和水を装置の上部からローラーポンプにより、150ml/dayの流速で滴下した。花崗岩の主な構成鉱物は石英、斜長石 (Ab86An12Or2)、アルカリ長石 (Or92Ab8) および黒雲母である。抽出部はマントルヒーターで50℃に加温した。抽出部においてCO2飽和水と反応した岩石片は、30日目、61日目、101日目、129日目、368日目に取り出し、実体顕微鏡、SEMで鉱物表面の状態を、またEPMAにより鉱物表面の化学的検討を行った。一方、抽出液は最初の1ヶ月間は3日毎に、それ以降4ヶ月までは約1ヶ月毎に、それ以降は4ヶ月おきに採取した。pH測定後、ICPおよびICP-MSにより、主要元素Si, Fe, Mn, Na, Al, Mg, Ca, K、及び微量元素Zn, Cr, Ba, Co, Ce, Sr, La, Rb, Sm, Pb, Y, Nb, Zr Niを定量した。CO2飽和水のpHは4.5で、反応後のpHは5.2から6.3であった。
EPMAによる鉱物表面の化学分析では、斜長石の (Na+Ca+K) / Total Al比、黒雲母の (Ca+Na+K) in interlayer / Total Al比は処理時間の増加に伴い減少する傾向がみられた。しかし、アルカリ長石表面の化学組成には変化が認められなかった。SEM像により観察した結果、実験の経過時間に伴って斜長石ではわずかに溶解が認められたが、黒雲母、アルカリ長石ではほとんど変化が認められなかった。鏡下の観察では368日間処理後の斜長石表面に黄褐色に変化した部分が認められた。CO2飽和水中に溶脱した元素のモル数と岩石片試料中の元素のモル数の比をみると、斜長石の溶脱に由来すると考えられるNa, Ca, Sr、および黒雲母に由来すると考えられる、Mn, Zn, Scが高い値を示した。