抄録
非酸化的環境下における鉱物-水-大気の相互作用は、先カンブリア時代における大気の進化や、現代における地下深部の風化様式を知る上で重要である。これまで、室内における珪酸塩鉱物の溶解に関する研究は多数行われてきたが、非酸化的な環境下における実験はほとんど行われてこなかった。今回我々は、溶液中の溶存酸素が鉱物の溶解速度や溶解機構にどのような影響を与えるかを調べるために、非酸化的環境下で溶解実験を行うことが可能な装置を開発した。
この実験装置では、反応前の溶液から反応容器、さらに反応後に溶液を回収するためのボトルまでをグローブボックスに入れることにより、系全体を大気から遮断し、アルゴンガスで充満させている。グローブボックスは厚さ20 mmのアクリル製で、サイズは80 x 58 x 52 cmで、横に20 x 20 x 20 cmの予備室を備えている。予備室は実験途中に器具を出し入れするために設けてある。主室は約10 Torr、予備室は約1 Torrの耐圧がある。実験のプロセスは以下の通りである。実験開始前に、装置一式を入れたグローブボックスをポンプで真空引きし、アルゴンガスを注入する。これを数回繰り返した後、反応溶液をアルゴンガスでバブリングし、反応溶液中の酸素をアルゴンで置換することで反応溶液を非酸化的条件にする。グローブボックス内は1気圧であるので、余剰のアルゴンガスは系外に放出される。また、グローブボックス内をわずかに正圧にすることで大気の侵入を防ぐ。反応溶液中の溶存酸素濃度が0.001 mg/l (PO2で 3 x 10-5 atm )以下を達成した後、試料が入った反応容器への溶液の供給を開始する。反応容器はインキュベーター内に設置し、フロースルータイプの溶解実験を行う。実験中は常に反応溶液をアルゴンガスでバブリングし続け、同時にこのアルゴンガスはグローブボックスに供給され続ける。反応容器を通過した溶液に対して、適宜溶存酸素濃度を計測し、その値が0.001 mg/l 以下に保たれていることをモニターする。反応容器を通過した溶液は適当なインターバルでサンプリングして、グローブボックス内に保管、あるいは取り出し、溶液の化学分析を行う。
この装置を用いて、層状珪酸塩鉱物の一つである黒雲母の溶解実験を行った。酸化還元反応に関与するFeの、鉱物の溶解速度・機構への影響を調べるために、試料はFe-richなもの(Biotite)、およびMg-richなもの(Phlogopite)を用いた。また比較のために、同様の実験を酸化的環境である現在の大気下でも行った。反応溶液は塩酸で pH 3 に調整した溶液を用い、30 ml/day の流速で40度に保たれた反応容器に35日間供給し、適宜サンプリングを行った。回収した溶液中の各陽イオンの濃度をICP-AESで測定し、そこから各陽イオンの溶出速度を算出し比較を行った。
Biotite(Fe-rich)の溶解実験の結果では、非酸化的環境下における溶解速度の方が酸化的環境下における溶解速度よりもわずかに早かったが、Phlogopite(Mg-rich)ではほとんど変わらなかった。またBiotite、Phlogopiteどちらに関しても、非酸化的環境下の方が、各陽イオンがより調和的な溶出速度を示した。