抄録
普通コンドライトは約45.6億年前に形成され、母天体上で熱変成を受けた岩石である。熱変成の熱源として最も有力なのは原始太陽系に存在していた消滅核種26Alの崩壊エネルギーであり(Lee, et al., 1976)、普通コンドライト母天体はこのような内部熱源によって、内部の温度が高い中心対称の温度構造を持っていたものと考えられている(Miyamoto et al., 1981, Trieloff et al., 2003)。しかし、金属鉱物を用いた冷却速度計による研究では、コンドライトの熱変成度と冷却速度の間に相関が見られず、普通コンドライト母天体の熱構造が大規模な衝突過程によって撹乱されていた可能性が指摘されている(Taylor, 1987)。本研究では、カンラン石-スピネル温度計(Fablies, 1979)と金属鉱物による冷却速度計(Willis and Goldstein, 1981)を用いてLグループの平衡コンドライトの熱履歴を推測し、Lコンドライト母天体の構造に関して考察した。
カンラン石-スピネル温度計を適用した結果では、各コンドライトの熱変成度に関わらず、カンラン石-スピネル温度計で得られた温度は通常ほぼ一定(600-700℃)であった。一方で、強い衝撃を受けた隕石で通常より100-400℃高い温度を示すほか、Y-86753(L5)のように衝撃組織をほとんど伴わないものでも、通常より100℃程度も高い温度を示す場合があることがわかった。これらのことは、カンラン石-スピネル温度計が短時間の加熱作用にも敏感である一方で、冷却速度の違いには鈍感であることを示している。衝撃組織を伴わずに高い温度を示したY-86753は、熱変成の後期に、通常のコンドライトに比べてはるかに速い冷却過程を経験したものと考えられる。
金属鉱物による冷却速度の見積もりでは、各コンドライトの冷却速度は0.1℃/Myr以下-100℃/Myr以上という幅広い分布を示し、冷却速度と熱変成度の相関は見られなかった。中でもY-86753は、これまでの文献値でも例が見られないほど速い冷却速度(約1000℃/Myr)を示した。このことは、Y-86753がカンラン石-スピネル温度計において通常より高い温度を示したことと調和的である。他のコンドライトではカンラン石-スピネル温度計と金属鉱物による冷却速度の間に相関関係は見られなかった。これはカンラン石-スピネル温度計に関わる元素の拡散が速いために、100℃/Myr程度より遅い冷却速度では見積もられる平衡温度に差異が出なかったためと考えられる。
Y-86753は、母天体深部で強い熱変成を受けた構成物質が、母天体の表面付近、あるいは母天体の外部で急速に冷却されたものと解釈できる。Lコンドライト母天体の構成物質は、熱変成中に起こった母天体の熱構造の撹乱によって、熱変成度に関わらず様々な冷却速度で冷却されたものと考えられる。
引用文献:Lee, T. et al., (1976) GRL 3, 109. Miyamoto, M. et al. (1981) PLPSC 12B, 1145. Trieloff, T. et al. (2003) Nature 422, 502. Taylor, G. J. (1987) Icarus 69, 1. Willis, J. and Goldstein, J. I. (1981) PLPSC 12B, 1135. Fabries, J. (1979) Contrib. Mineral. Petrol. 69, 329.