抄録
分化した隕石・ユークライトは、小惑星ベスタの表層地殻をつくっていたとされる。これらの隕石は、約45.6億年前のコンドライト的原材料物質の大規模な溶融により形成されたとされている。ユークライトの鉱物学的研究から、表層地殻の進化過程は、火成活動・熱変成作用・衝撃変成作用がからみあい、非常に複雑だったと考えられる。ユークライトの熱史は、その地殻発達過程や岩石学的成因(例えば、マグマ大洋説や部分溶融説)[1,2]とも直接関係していたと考えられる。本研究では、結晶化年代の決定されたMgに富む(集積岩)ユークライトと玄武岩質ユークライトについて鉱物学的研究を行い、熱史と衝撃史の比較、そして、母天体地殻の発達過程について考察した。
玄武岩質ユークライトは、角レキ化や再結晶作用を受けていない部分の岩石組織から、母天体表層あるいはその付近に噴出した溶岩が、かなり速く(0.1-100℃/h)冷却されてできたと考えられている。しかし、強い熱変成作用を受けたグループ(e.g., Ibitira, EET90020)は、輝石中のCaゾーニングや斜長石のNa-Caが部分的に均質化されたり、熱変成作用中に形成されたと考えられる普通輝石の結晶片などを含むものがある。これらは、ピーク温度が1000℃付近に達したためだとされている[e.g., 3]。また、酸化鉱物(クロム鉄鉱+チタン鉄鉱±Fe)の産状や再結晶組織の存在から、多くの玄武岩質ユークライト(e.g., Y-792510)は熱変成作用中に一回以上の衝撃変成作用を受けたと考えられる[4] 。
Mgに富むユークライトは、その化学組成や集積岩組織から、結晶化時、地殻深くでゆっくり冷却して形成されたとされる[1]。主要構成鉱物であるビジョン輝石には、変成度の低い玄武岩質隕石の輝石に見られるような、Caゾーニングは見られず、1000-900℃付近でゆっくり冷えたと考えられる。しかし、輝石の転移組織や離溶組織は様々であり、冷却中の熱史は、高温から急冷されるなど、簡単なものではないことが知られている[e,g., 1]。角レキ化していない集積岩ユークライトを詳細に観察すると、輝石中に不規則に並んだ微少な(<2-3um)クロマイトやFe-FeS(±SiO2)の包有物が含まれるもの、斜長石や輝石中にFeSの微少包有物の見られるものが見つかった(Moama, Serra de Mage, Moore County)。これらは、玄武岩質ユークライトには普通に観察される組織であり、Mgに富むユークライトも同様、熱変成作用中に衝撃変成作用を受けたことを示す。また、Y791195には、再結晶した脈が観察された。これは、この隕石が、熱変成作用以前(もしくはその途中)に、角レキ化を受けたことを示す。
玄武岩質ユークライトは表層で急冷し、集積岩ユークライトは地殻深くでゆっくり固化したと考えられる。しかし、固化後、二つのタイプのユークライトは、1000℃近くで同レベルの熱変成作用を受けていることを考えると、固化後に起こった熱変成作用中では、類似の深さでゆっくり冷却したと考えられる。このような高温での熱変成作用は、母天体初期の火成活動の余熱で起こったと考えられる[3]。これは、連続的な溶岩の噴出や貫入による地殻の形成やマグマ大洋の固結が比較的短期(1-2百万年)の間に起こったという仮説[3]と調和的である。酸化鉱物の産状やピジョン輝石(部分的に転移した斜方輝石)の組織は、ユークライトの地殻を掘り起こすような大規模衝突現象が母天体形成初期の熱変成作用中に何度も起こったことを示す。
参考文献:[1] Takeda (1997) Meteor. Planet. Sci. 32, 841 [2] Stolper (1977) Geochim. Cosmochim Acta 41, 587. [3] Yamaguchi et al. (1996) Icarus 124, 97. [4] Yamaguchi (2000) Meteor. Planet. Sci. 35, A174.