抄録
シリカ鉱物の高圧相のひとつコーサイトは超高圧変成岩中に観察され、地殻物質が100kmを超える深さまで沈み込んだ結果と考えられる。また、マルチアンビルを用いた合成実験によりコーサイト中には、5GPa、1100℃以上でOH基の形でプロトンが取り込まれ地球深部においてOH基を保持する高圧鉱物の候補と考えられる(Koch-Muller et al. 2001)。コーサイトの低圧相の石英中にはやはりOH基が入りうるが、石英中に含まれる“水”のもう一つの形態として流体包有物がある。流体包有物を含む石英が、超高圧変成作用などの高温高圧条件下に持ち来されコーサイトに相転移する際、“水”がどのように挙動するかは地球科学的に興味ある問題と考え、外熱式ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて石英中の流体包有物の赤外吸収スペクトルを高温高圧下その場測定し、石英ーコーサイト相転移の際の“水”の挙動を観察した。高温DAC実験後の微小な回収試料のX線回折を測定するために、ガンドルフィカメラを用いた。今回、ガンドルフィカメラを用いて撮影したX線フィルムを、市販のスキャナー、NIH-image、エクセルを用いてX線フィルムの濃淡を数値化・集計し、0.025°刻みのX線回折図に変換するシステムを作成した。処理する面積は25.4×180mm2でデータの総数は約450万点である。外熱式DACはレバー式でシリンダー部を外側からスクエアヒータで加熱し、ダイヤモンド近傍もカンタル線を用いて加熱した。高温高圧下での赤外吸収スペクトル測定は、高輝度光科学研究センター(SPring-8)赤外放射光ビームライン(BL43IR)の赤外顕微鏡を用いた。出発物質として流体包有物を多く含む石英薄片を準備した。実験後、回収試料をガンドルフィカメラを用いてX線回折パタンを測定し、相の同定を行った。測定例として、#1(到達温度圧力7GPa, 550℃)、#2(8GPa, 600℃)を紹介する。ガンドルフィカメラによる回収試料の同定によると、回収試料はコーサイトと同定された。#1、#2共に、常温下初期加圧により3400cm-1を中心とする水の赤外吸収ピークは低波数側3200cm-1に移動した。これは流体包有物中の水が固化したためと考えられる。加熱により#1のピークは3500cm-1付近に移動し、半値幅は出発物質の3400cm-1より小さくなった。#1の回収試料からは、Koch-Muller et al.の報告にあるようなOHのシャープな吸収ピークは測定されなかったが、#2の回収試料では、3本のOHの吸収ピークが観察された。このことから、石英ーコーサイト転移の際、コーサイト中にOH欠陥が形成され、従来の報告より低い温度でOH欠陥が形成される可能性があることを示唆する。