抄録
46億年もの間、ほとんど変質を受けていないコンドライト隕石にはコンドリュールと呼ばれる直径0.1-1 mmの珪酸塩球結晶が多量に含まれている。コンドリュールは液滴が急冷されることで形成したことがわかっているが、地上では見られない特徴的な結晶組織も見られ、その形成メカニズムは不明な点が多い。その大きな理由の1つとして、コンドリュールは宇宙空間で浮遊していた液滴から結晶化したため実験的アプローチが困難であることがあげられる。そこで、ガスジェット音波浮遊炉を用いて試料を浮遊させ、宇宙空間をシミュレートした非接触実験を行った。対象としたのは球表面から放射状に伸びる組織をもつ放射状輝石コンドリュールであり、出発物質は試薬を調合して加熱冷却し、直径2-3 mmの球形結晶やガラスにしたものを用いた。
ガスジェット浮遊炉による非接触実験では冷却中に結晶化は起こらずにガラス化した。これは不均質核が無いために核形成が抑制されていると考え、数百Kという超高過冷却状態で数分ほど結晶化を待ってみたがそれでも結晶化は起こらず、10分ほど様々な温度履歴を与えたが結局結晶化させることはできなかった。このように、非接触状態では非常に強く核形成が抑えられてしまうため、容易に高過冷却状態が実現することがわかった。
コンドリュール形成環境である原始太陽形星雲は惑星の材料物質であるダスト微粒子が大量に存在していた状態であり、このような環境では少なくとも数分オーダーでダスト微粒子との衝突を免れることはできない。よって、放射状輝石コンドリュールは自発的な核形成の前に、接触したダスト微粒子による不均質核形成が起こることが示唆される。
直径0.1 mmの白金ワイヤーで試料を固定すると同時に不均質核を与えた実験を行ったところ、400-550 Kという超高過冷却状態で放射状組織が形成することがわかった。結晶成長速度を測定すると、過冷却度が大きくなるにつれ増加するが、あるところでピークを持ち、放射状組織が形成するような超高過冷却状態では逆に減少する傾向が見られた。これは高い粘性のために結晶成長速度が抑えられているためと考えられる。
この傾向は結晶組織の形成に影響を及ぼす。放射状輝石コンドリュールは、同様に完全溶融メルトから形成したバードオリビンコンドリュールとは異なりリム構造を持たない。コンドリュールメルトは表面から冷えていくために表面の結晶成長速度が速まる傾向にある。しかし、放射状輝石コンドリュールメルトの場合は、表面が冷えすぎると逆に成長速度が低下するため、リム構造が形成されないことになる。
実験結果をまとめると、放射状輝石コンドリュール形成プロセスは以下のようになる。(1) 急冷されながら400-550 Kの超高過冷却状態になるが結晶化は起こらない。(2) ダスト微粒子と接触しメルト表面で不均質核形成が生じる。(3) 結晶化は低温である表面ではなく高温である内部へと放射状に進行しコンドリュールが完成する。