日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K4-13
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微小重力での惑星間微粒子の核形成実験
*小畠 秀和塚本 勝男佐藤 久夫長嶋 剣
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抄録

1.はじめに
 惑星間微粒子の形成メカニズムを明らかにすることは、太陽系における固体物質の初期進化速度を考える上で重要な課題である。本研究では初期太陽系における惑星間微粒子の核形成速度のガス過飽和度依存性を明らかにするために、惑星間粒子として代表的な物質であるforsterite (Mg2SiO4), enstatite (MgSiO3)を出発物質に用いた蒸発・凝縮実験を行った。
2.実験方法
 地上での実験では凝縮粒子形成場の温度・濃度環境が対流によって乱されるため、凝縮粒子の核形成速度を求めることは難しい。この対流を抑制するために、本研究では落下施設(MGLAB)を利用した微小重力環境下において実験を行った。Wフィラメント(5mm)に付着させた粉末状の出発物質を実験前に融解させ、ガラス化したものを蒸発源に用いた。このフィラメント(12V, 50W)に3.0秒間通電することで出発物質を加熱し、蒸発させた。出発物質の加熱はAl真空チャンバー(内径: 60mm, 高さ75mm)内で1.0×100-1.0×105PaのAr雰囲気下で行った。凝縮粒子形成過程を明らかにするために、チャンバー側面にあるビューポート(Φ= 30mm)から広視野レンズを取り付けたCCDカメラによる凝縮粒子形成過程のその場観察を行った。凝縮粒子生成温度の決定は、多波長放射温度計による蒸発源の表面温度測定及びPt-PtRh13熱電対(Φ= 0.1mm)による蒸発源周辺のガス温度測定を行い、蒸発源近傍のガス温度分布を求めることで行った。実験後に凝縮粒子を分析するために、Al板(5×30mm)及び透過電顕用グリッドをチャンバー内に固定し、蒸発源から5-30mmの場所で凝縮微粒子の回収を行った。回収した凝縮微粒子の解析はSEM, TEMを用いて行った。
3.結果,まとめ
 その場観察の結果、加熱開始から0.1秒後にenstatiteメルト(2000℃)近傍から球状に粒子雲が広がっていくことが観察された。さらにその約1.0秒後に再度、enstatiteメルト近傍から粒子雲が広がっていくことが観察された。観察された粒子雲の移動速度(5.0mm/s.)はガス拡散速度(44.7mm/s., Ar-O2, 20℃,1atm)よりも遅く、粒子(100nm)の拡散速度(0.8mm/s.)よりも早いことからこの煙雲の広がりは微粒子の核形成フロントの移動によるものであると考えられる。高分解能SEMによる観察及びEDSによる組成分析により、初めに凝縮した粒子は数100nm のsilica粒子であり、それらは互いに付着することで1μm程度の凝集体を形成していた。2度目に凝縮した粒子は、一方向に伸長した1μm程度の方形enstatite粒子であった。蒸発源からの距離が10mmの場所ではガス温度は600K 程度であり、silicaが安定相となる。しかしenstatiteに対しても蒸発ガスは1760Kの過冷却状態となっているため、enstatite粒子は核形成することができたと考えられる。平衡凝縮論では粒子の凝縮順序はforsterite, enstatite, silicaである。しかし、今回の実験は、従来考えられてきた凝縮順序とは逆に高過冷却状態のガスでは表面張力の違いにより、silica粒子がforsterite粒子やenstatite粒子のよりも早く核形成するという事を示す。

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© 2003 日本鉱物科学会
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