日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K4-15
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極限状態の結晶成長:超過冷却メルトの元素と同位体の分別挙動
*佐藤 久夫長嶋 剣塚本 勝男森下 祐一
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抄録

メルト結晶成長は,地球では水の凍結やマグマの結晶化,宇宙ではコンドリュールの凝固に見ることができる.その過程で,結晶は母液の分化によって多様な累帯構造を成長履歴として獲得する.近年,安定同位体を用いた詳細な結晶成長履歴の解析が可能となり,結晶の分別挙動が,不純物などの元素のみならず同位体レベル(Morishita and Satoh, 2003)で高精度に理解できるようになった.メルト結晶成長の場合,FZ結晶育成法に見られるように,過冷却支配で結晶成長速度は変化する.地球の溶岩などでは通常,約200K程度までの過冷却で結晶化が進行するが,宇宙空間でのコンドリュール形成においては,微小重力,無容器環境では,核形成が極端に阻害されるために,600Kを超えるような非常に大きな過冷却を伴って結晶化することが可能である.したがって,過冷却をパラメータとした同位体と元素の分別挙動についてはコンドリュール再現実験を行うことで理解が深まる.低過冷却メルト結晶成長実験は従来型FZ装置を用い,超高過冷却メルトの結晶化実験にはFZ下軸シャフトを改良した,ガスジェット浮遊装置を用いた.オリビン+斜長石および輝石+斜長石組成コンドリュールメルトの凝固過程において,オリビンへのCa/Mg分配と18O/16O分別の評価はEPMAとレーザープローブを用いた.その結果,それぞれの過冷却度δT=1000, 500K近傍で,その分配係数が約1.0に収束することがわかった.そのときの18O/16O分別係数αx-mも1.0に近づく.通常,マグマにおける低過冷却でのオリビン結晶化では18O/16O分別は低温であるほど小さくなるが,高過冷却メルトでは,結晶への不純物や同位体の選択性がなくなる方へと変化する.超過冷却条件(低温)では,メルトの拡散の低下,粘性の増大に伴い成長速度が減速するため,固液間での動的な分配機構(e.g., BPS model)は考えにくい.従って,固液間の元素や同位体の分配が,単純に温度の関数として働いていると考えると,超過冷却のような極限状態では,もはや古典的な分配関数の考え方が適応できないことになる.しかしながら,このような環境がメルトに与えられれば,FZ結晶育成ではまだ合成できていない「同位体均質結晶」が合成できるであろう.

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© 2003 日本鉱物科学会
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