日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K4-18
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蛍光分光法で見る鉱物溶解速度の結晶面依存性
*福良 哲史角森 史昭鍵 裕之
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キーワード: 方解石, 溶解
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抄録

【序】
 鉱物は等価でない多様な結晶面を持っている。ミクロンオーダー以下の領域の局所的な原子レベルでの溶解過程の観察は、原子間力顕微鏡(AFM)等を用いた研究が行われているが、ある結晶面全体の平均的な溶解速度が結晶面によってどのように異なるかは、局所的な観察方法では明らかにしにくい。本研究では、面の局所的な溶解ではなく、結晶面の溶解というマクロなスケールで、鉱物の水への溶解速度が結晶面によってどのように異なるのかを調べることを目的とした。そこで、鉱物が溶解する際に結晶表面近傍のイオン濃度変化を測ることのできる装置を製作した。また、サンプルは多様な晶相をもつ代表的な鉱物、方解石(化学組成CaCO3)を用いた。
【装置の作製と実験方法】
 結晶の溶解過程は、イオン濃度に敏感な蛍光色素を用いて、液中のイオン濃度の分布を通して見積もることとした。そこで、特定のイオンに活性な蛍光色素を溶媒に加え、溶ける結晶面近傍の蛍光スペクトル変化を測定することのできる、レーザー共焦点光学系を作製した。この装置は溶液中での位置選択性が高く、また、時間分解能・濃度感度も高い。具体的にはNA0.95の対物レンズの使用で、長軸直径20μm、短軸直径10μm程度の回転楕円体を測定領域とすることができた。また、一次元CCDと刻線数600/mmの回折格子を備えた小型マルチチャンネル分光器(USB2000)を用いることで、50msごとにスペクトル測定が可能となった。本実験で用いている蛍光色素はサブマイクロ秒の応答性を持っているので、蛍光スペクトルの形状変化は溶液中のイオンの拡散律速となっている。
 まず、倒立顕微鏡ステージの上に台座のあるカバーガラスを置き、台座の上に方解石を乗せた。焦点領域を結晶表面から90μmの所へ固定し、そして、pHによってスペクトルが変化する蛍光色素、SNARF-1水溶液(3μ/mol)を方解石の下に導入することで、方解石の特定の面を溶解させた。SNARF-1の励起光にはAr+レーザーの514.5nm光を用いた。本実験で測定を行った結晶面は(10-14)面、(10-10)面、(01-18)面である。実験は開放系で行った。なお、用いた蛍光色素SNARF-1はpH=6~9の範囲でスペクトルの変化が起こる色素であり、方解石の溶解には影響を及ぼさないことが確かめられている。
【結果】
 SNARF-1水溶液が流し込まれると、最初蛍光スペクトルは580nm付近と640nm付近に二つのピークを持っていた。その後、方解石が溶解し、液中のpHが上昇するにつれて、短波長側のピークが弱まり、最終的には640nm付近の長波長側のピークのみが残った。得られた蛍光スペクトル変化を解析するために、あらかじめpHのわかっている溶液を用いてSNARF-1水溶液のスペクトルの校正を行った。SNARF-1はpH=9付近では蛍光スペクトルの形状変化を見積もることが難しいため、液中のpHが6から8に変化するまでの時間を溶解時間と定義し、各面ごとの溶解時間の比較を行った。解析の結果、(10-14)面、(10-10)面、(01-18)面の3面の中で、劈開面である(10-14)面が最も遅く溶解し、(10-10)面が最も速く溶解することがわかった。

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© 2003 日本鉱物科学会
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