日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K4-19
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超高圧下におけるコンドライトメルトの急冷結晶化
*富岡 尚敬齋藤 恵子伊藤 英司桂 智男藤野 清志Das Kaushik小川 久征
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抄録

はじめに
 激しい衝撃を受けた石質隕石中の衝撃溶融脈(shock vein)中にはメルトから晶出した様々な高圧鉱物が発見されており,その鉱物組み合わせと,高温高圧実験で得られた相平衡から,衝撃変成の温度・圧力履歴が議論されている.しかし,隕石におけるメルトの結晶化は非平衡過程であり,生成相がメルトの結晶化圧力を示しているのか,また,結晶化圧力は衝撃変成のピーク圧力を示しているのか,は未だ不確定である.本研究では高圧下でのコンドライトメルトの急冷実験を行い,冷却速度と結晶化様式を比較することを目的とした.

実験
 Forestburg隕石(L4)をメノウ乳鉢で細粒(~10 μm以下)にしたものを出発物質とし,2種類の高圧装置を用い,メルトの高圧下での急冷実験を行った.1)出発物質をグラファイトカプセルに封入, 岡山大固体地研のKawai式高圧装置(KHA)を用い,レニウムヒーターにより~23 GPa, 2000℃以上の条件で加熱.加熱終了後,ヒータ電源をOFFにし,高圧下で急冷した.2)出発物質を北海道大理学部のダイヤモンドアンビルセル(DAC)で加圧(31.6 GPa),YLFレーザーで~2100℃で加熱.加熱終了後,レーザー出力をOFFにし,急冷した(加熱後圧力25.1 GPa).以上1),2)の回収試料をSEM, ATEMにより解析した.

結果と考察
 今回の急冷時の圧力はいずれの実験も,コンドライトにおいてmajoriteがリキダス相となる圧力範囲(14-26 GPa)である(Agee et al. 1995).KHAの試料は,ほぼ全体が樹枝状構造をしており(幅数μm),メルトが急冷時に結晶化したことを示している.最もdominantな相はmajoriteであり,化学組成は(Mg3.09, Fe0.50, Ca0.12, Al0.16, Si3.87)O12である.粗粒のmajorite( 数μm)の隙間を埋めるように,Fe-metal, -oxide,-sulfide及び ringwooditeが形成されている.DACの回収試料のATEM観察では,レーザー加熱により溶融した領域は,Fe-Sに富む微小なglobuleが形成されているが,珪酸塩はFe, Alに富むringwoodite(Fe/(Mg+Fe)=0.45±0.10)(300 nm以下)とglassの2相のみであった.強い衝撃変成(S6)を受けたコンドライトの一つである,Tenham(L6)の shock veinは,majoriteがdominantで,化学組成・鉱物組み合わせはKHAで合成されたものとほぼ同じである. KHAによる急冷速度は,103℃/sec ,レーザー加熱DACでは106-107 ℃/secオーダーであり,Tenhamのshock veinの冷却速度は,KHAにおける急冷に近かったと推定される.これまで隕石中のshock veinの冷却速度の見積もりとして, metal-sulfide intergrowth中の樹枝状Feの幅と冷却速度の関係式が用いられている(Blau et al. 1973).これをTenhamに適用すると,shock vein中の樹枝状Feの幅(~0.5-0.7μm)から,冷却速度は106-107 ℃/secとなり,DACによる急冷速度にむしろ近い.しかし,Blau等が実験的に得た関係式には圧力効果が考慮されておらず,高圧下での冷却速度が過剰に見積られている可能性が高い.

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© 2003 日本鉱物科学会
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