日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K5-01
会議情報

水素結合もった鉱物の圧縮挙動について -NaHCO3編-
*永井 隆哉鍵 裕之山中 高光
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

含水鉱物のマントル条件下での挙動は、火山活動や地震発生に影響を与えるだろうことはもちろん、マントルの物性(特にレオロジカルな)を左右するといっても過言ではない。我々はこの問題へ、水素結合と圧縮挙動の結晶構造的理解という方向からアプローチしようとしている。
 Nakamoto et al. (1955)やNovak (1974)らが報告している様々な結晶の水素結合を挟んだO...O距離とO-H伸縮振動ピーク位置との相関を、高圧下でのO...O距離の短縮による変化と読み替えることができると仮定すると、高圧下ではO-H伸縮振動ピークが低波数側にシフトし、水素結合強度が増していくことが期待される。この仮定の検証が我々の研究の第一目標である。氷VI相に関しては広い圧力領域に渡って、このトレンドに沿った圧縮によるO-H伸縮振動ピークの変化が観察されている(Aoki et al.,1997)。
 静水圧下での結晶構造を実験的に精度よく議論できるのは現在のところ10 GPa程度までである。そこで我々は、弱い水素結合を持つ鉱物、中間のもの、強いものをいくつか選び(弱:Mg(OH)2, Ca(OH)2、中:α-FeOOH、強:NaHCO3, KHCO3)、それぞれの10 GPa程度までの圧縮挙動から、圧力と水素結合のシステマティクスを広いO…O距離範囲で確立することを試みることにした。これまでの鉱物学会年会で、Mg(OH) 2、Ca(OH)2、α-FeOOH、KHCO3に関しては報告済であるので、今回は強い水素結合を持つNaHCO3の圧縮挙動についてその詳細を報告するとともに、圧力と水素結合のシステマティクスについても議論したい。これまでの結果では、Mg(OH)2とCa(OH)2は、上述したO…O距離とO-H伸縮振動ピーク位置のトレンドによく乗っているようであるが、α-FeOOHとKHCO3では、トレンドに乗らずO...O距離の短縮にもかかわらずO-H伸縮振動ピーク位置にあまり変化がないようである。
 実験は、合成したNaHCO3粉末を用い、ダイヤモンドアンビルセルを使った角度分散による高圧下X線粉末回折実験をPF、BL18Cで行った。0.2 GPaから9 GPaまでの測定結果は、格子定数だけでなく、原子間距離も議論するためRietveld解析を行った。その際、CO32-が十分に硬いという非線形制約条件を付加し精密化する構造パラメータを減らしたが、結晶構造の圧力変化の報告がある炭酸塩では、10 GPa程度の圧縮でCO32-はほとんど圧縮されないという結果から妥当だと考えている。
 圧力-体積関係をBirch-Murnaghan状態方程式でカーブフィットすることにより体積弾性率はK=36 GPa (K’=4)と求められた。NaHCO3の結晶構造は、HCO3-が水素結合によって[101]方向に一次元鎖を形成しているという特徴を持つ。軸圧縮率は鎖の方向に垂直なb軸方向が最も硬く、水素結合の圧縮が大きいことを示唆する。水素結合を挟むO...O距離は、0.2 GPaでは2.59 Åであるが、圧力とともにほぼ直線的に圧縮され、9 GPaでは2.40 Åにまで短縮される。水素結合を挟むO...O距離が2.4 Åというのは、O...O距離の中心に水素が移動するという水素結合対称化が起こる可能性が指摘される距離であり、NaHCO3で何が起こっているのか興味深い。現在、赤外吸収実験と中性子回折実験を行っており、当日はその結果も合わせて報告できる予定である。

著者関連情報
© 2003 日本鉱物科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top