日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K5-02
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集束イオンビームミリング法を用いたFe-FexO界面の分析電顕観察
*宮島 延吉丹羽 健市原 正樹八木 健彦
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抄録

はじめに
 最近、透過電子顕微鏡(TEM)観察用薄膜試料の作成法のひとつとして、集束イオンビーム(Focused Ion Beam, FIB)ミリング法が注目されている。サブミクロンの微小領域のピンポイント加工や、異種多相材料(異相界面)を均一な厚さで研磨できるなどの利点は、イオン研磨法の抱えるいくつかの問題を解決できる。現在我々は、この作成法を超高圧実験回収試料に応用することを進めている。例えば、レーザー加熱ダイアモンドアンビルセル(LHDAC)実験の回収試料を、加圧軸に平行な断面で薄膜を切り出し、分析透過電子顕微鏡(ATEM)観察する。これにより、温度勾配の有無を定量的に評価し、高温高圧下での化学反応現象をより深く議論できる。本研究はその予備的な実験として、表面酸化層を有する鉄箔中のFe-FexO異相界面を、FIBミリング法で薄膜作成し、ATEMで解析した。
実験方法
 厚さ約0.03 mmの鉄箔(純度99.9%)を、CO2とH2の混合ガスを流した雰囲気制御炉を用い、1070 Kで酸素分圧を制御しながら10 分間保持し、急冷回収した。回収試料表面の酸化層は、反射光学系の微小部X線回折装置を用いたX線回折により、Fe0.95O相であることを確認した。回収した箔は、2枚のスライドグラスで挟み固定し、酸化層面に垂直に約0.04 mmの厚さまで薄くした後、片方の端を切断しダイシングした。ダイシングした試料を、半分に切断したMo単孔メッシュに接着固定し、界面を含む観察断面を150 nm以下の厚さ残して、電子線が透過できるように不要な部分をFIBミリングで取り除いた。TEM観察は、エネルギー分散型X線分光器(EDXS)を付属した加速電圧200 kVの透過型電子顕微鏡(JEOL-2010F)を用い、明視野像、電子線回折像や高分解能像観察により、界面組織や両相の方位関係およびGaイオン照射ダメージを評価した。また、EDXSを用いた化学組成分析は走査電子線モード(STEM mode)で行い、界面近傍から酸化層の表面にかけての酸素K線と鉄L線の強度変化プロファイルを調べた。
結果と考察
 FIBミリング法により、α-Fe相(BCC構造)とFexO相(B1構造)の界面を含み、ほぼ均一な厚さを有するTEM薄膜領域(面積約0.002 mm x 0.005 mm)が得られた。生成したFexO相は、約0.001 mm径の粒子から構成されており、一部の粒子間ではFexO相の(200)面とα-Fe相(110)面にトポタキシャルな関係が見られた。高分解能像からは、Gaイオン照射によって生じるアモルファス層の厚さは、α-Fe相の場合5 nm以下であることが分かった。EDXS分析で得られた界面近傍から試料表面までのFexO相内の酸素K線強度プロファイル(約0.001 mm)からは、酸素拡散過程と関連した連続的な酸素含有量の増加が確認され、FexO相のストイキオメトリーの連続的な変化が示唆される。FexO相のストイキオメトリー変化は、超高圧下でのFexO相の構造相転移の組成依存性を議論する上で大変重要である。今後、収束電子線回折法による精密格子定数決定と電子線エネルギー損失分光法による酸素濃度の定量測定を組み合わせ、サブミクロンオーダーでストイキオメトリー変化を検出することを試みるつもりである。

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© 2003 日本鉱物科学会
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