抄録
母天体の衝突による衝撃変成作用は隕石中に普通に認められ,隕石の希ガス組成や同位体組成などに重大な影響を及ぼすことから,その程度を推定することは母天体同士の衝突に限らず,初期太陽系での種々の過程を調べる上で重要となっている.これまでの研究では,隕石中の鉱物,とくにかんらん石の衝撃組織に注目した定性的な衝撃作用の推定が行われているが(Stoffler et al., 1991),定量的な評価はこれまでなされていない.
コンドライト隕石中には主要構成鉱物としてかんらん石が多く含まれ,衝撃作用により種々の衝撃組織を示すことが知られている.X線粉末回折法では,回折線の広がりから,見かけの格子歪みを推定することが出来(Wilson, 1962),隕石中のかんらん石の格子歪みを調べることにより,衝撃作用の定量的評価が可能となる.しかし,隕石中のかんらん石は数百 μm大の個々の結晶ごとに格子歪みや化学組成が異なるため,分析に数十mgの試料を必要とする従来の回折計を用いた方法では,信頼できる結果を得ることが不可能であった.ガンドルフィカメラでは数十 μm大の結晶から精密な粉末回折パターンを得ることが出来ることから,研磨薄片中のかんらん石をEPMAで分析後,分析された結晶そのものを実体顕微鏡下で取り出すことによって,個々のかんらん石粒の格子歪みの測定が可能となる.今回の発表では,ガンドルフィカメラによる回折線ブロードニングの精密解析と,その応用としての隕石中かんらん石の格子歪みの測定をもとに,鉱物科学の新しい研究方法としてのガンドルフィカメラの有用性の一面を紹介したい.今回行った実験の概要は以下のようである.
ガンドルフィカメラによる粉末回折パターンの撮影は,EPMAによる化学分析後,研磨薄片から取り出された約50 μm大の結晶を3~10 μm径のガラス針につけて試料とし,114 mm径のカメラを用いて行った.X線源はCrアノード,Vフィルター,0.2 x 2 mm大のフィラメントを用いた回転体陰極型X線発生装置,パターンの記録は1ピクセル50 x 50 μmのイメージングプレート(IP)で行った.回折角に対する一次元の強度データは,3.5 cm幅のIPに記録された2次元の回折パターンの中心部1.5 cm幅で,回折リングに沿って0.025°(2θ)間隔で強度を積算することによって得た.回折パターン中の各回折線の積分幅はpseudo-Voigtタイプのプロファイル関数を用いた部分フィティングにより, 2θ=20~120° 範囲に現れる約40本の回折線について得,見かけ歪みはこの積分幅をtan(θ) に対してプロットしたときの傾きとして求められた(Wilson, 1962).
文献:Stoffler et al. (1991) G.C.A. 55, 3845-3867; Wilson, A.J.C. (1962) X-ray Optics, John Wiley & Sons Inc., New York.