日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K6-01
会議情報

環境中におけるウランの挙動及び移行への微生物の影響
*鈴木 庸平Kelly ShellyKemner Kenneth M.Banfiled Jillian
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

ウランによる環境汚染はウラン鉱山をはじめ核兵器製造や核燃料処理施設周辺で深刻な問題で有る。現在、微生物による自然浄化作用を促進する修復法が安価な代替法として強く期待されている。可溶から不可溶性への化学形態の変換は、溶液からウランを除去するため無毒化と考えられる。本研究では複雑な天然環境中において、微生物によりウランの無毒化が行われているか、又それが人為的に促進されるかについて研究を行なった。
 六価ウランから四価への還元は沈澱を伴う反応である。故にウランを無毒化すると考えられる。ウラン鉱山中の堆積物及び水を採取し、実験室で有機基質を加え還元的条件で培養した。培養一ヶ月後、溶液中のウラン濃度が20 から0.3 ppmに減少した。放射光を用いたX線吸収端極近傍構造解析(XANES)により六価からの還元により四価のウランとして堆積物中で沈澱していることがわかった。透過型電子顕微鏡(TEM)観察及びエネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析により、ウランは微生物細胞表面で沈澱している事が明らかになった。培養後抽出されたDNA中のrRNA遺伝子を用いた系統解析の結果、ウラン還元能が知られていない硫酸還元菌Desulfosporosinus sp.がウラン還元に関与していると示唆された。その硫酸還元菌を単離培養しウラン還元能を調べた結果、ウラン還元能を有する事が判明した。
 次に微生物によるウラン還元が天然環境でもウランを無毒化しているか調べるため、ウラン鉱山内の堆積物及び水を直接的に調べた。水に含まれるウランは六価で濃度が約2 ppmであるのに対し、堆積物中では最大750 ppmのウランが大部分四価で濃集している事がXANESスペクトルの解析で明らかになった。走査型及び透過型電子顕微鏡による観察及びEDX分析によりウランは硫化鉄を沈澱している微生物細胞に濃集していることがわかった。この堆積物中から得られたDNA中のrRNAと硫酸還元菌の全てが有する異化型亜硫酸還元酵素の遺伝子を用いた系統解析により、ウラン還元能を有し硫化鉄を沈澱する事が知られる、GeobacterとDesulfovibrio族に属する微生物の存在が明らかになった。750 ppmはウラン鉱石と同程度の品位であり、環境中での微生物によるウラン還元濃集の重要性が強く示唆された。
 微生物のウラン還元による生成物をX線広域吸収微細構造解析(EXAFS)及び超高分解能TEM像解析により結晶化学的特性を詳細に調べた。その結果、複雑な堆積物中と単純な実験系で還元された場合の双方とも粒径が約2 nmの結晶度の高いウラン酸化物として沈澱している事が明らかになった。結晶サイズを反映しバルクより収縮した構造をしており、その程度から溶解度積がバルクと比較し十億倍以上増加することが示唆された。今後の課題として、還元濃集したウランをより長期的に安定な化学形態へ変換させることが必要で有る。

著者関連情報
© 2003 日本鉱物科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top