日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K6-03
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バクテリアの表面電荷特性と金属イオン吸着
*河野 元治富田 克利
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抄録

地球表層物質圏(地殻最表層から地下数千mに及ぶ領域)は、鉱物圏-水圏-生命圏の重複領域であり、これら各圏の種々の相互作用が進行している複雑かつユニークな反応場として位置付けられる。ここで、鉱物圏の大部分を占める珪酸塩鉱物のマクロな挙動に着目すると、水は鉱物の溶解と析出反応を進行させる媒体であり、生命圏の主要構成要素であるバクテリアはこれらの反応を促進する触媒としての機能をもつ。したがって、地球表層物質圏での鉱物の溶解や析出を伴う種々の地球化学的反応を取り扱うに際し、バクテリアによる触媒効果の定量的評価とその反応機構を明らかにすることはきわめて重要な検討課題となる。そこで今回は、風化堆積物中で進行するバクテリア細胞表面での鉱物析出反応を取り上げ、鉱物生成に及ぼすバクテリアの影響について検討した。バクテリア細胞表面での鉱物析出は、細胞表面へのイオン吸着を初期反応とした収着作用により進行すると考えられている。そのため本研究では、バクテリア細胞の表面電荷特性とAl、Fe(III)、Siのイオン吸着について検討した。
 実験には地球表層物質圏に生息する代表的なバクテリアの一種 Pseudomonas fluorescens を用いた。理研JCMの菌株をYG培地で培養し、1.0mM HNO3で培養液中の吸着イオンの洗浄、その後pHが一定となるまで蒸留水洗浄を繰り返した。洗浄後、バクテリア試料は凍結乾燥して実験用として保存した。バクテリア細胞の表面電荷は、酸/塩基滴定法で得られたデータのFITEQL計算により解析した。酸/塩基滴定は、バクテリア試料0.1gを0.1M NaNO3 100mlのバックグラウント溶液に添加し、0.1M HNO3 および 0.1M NaOH滴定溶液を用いて行った。滴定ステップは0.1ml/15min とし、窒素雰囲気下でスターラー撹拌を行い、pH3~10.5程度までの領域のpH変化を測定した。FITEQL計算は、constant capacitanceモデルを用い、カルボキシル基(X-COOH)、リン酸基(X-POH)、水酸基(X-OH)の酸/塩基解離定数と各官能基サイト数の最適化を行った。イオン吸着実験は、0.1mM 濃度のAl (Al(NO3)3)、Fe(III) (Fe(NO3)3)、Si (Sodium silicate)を各々含む0.1M NaNO3 100ml溶液にバクテリア試料0.1gを添加し、0.1M HNO3 および 0.1M NaOHを滴下したpH2~12の溶液pH範囲で行った。所定pHで5分間撹拌後、0.2μmメンブレンフィルターろ過溶液中のAl、Fe(III)、Si濃度を原子吸光法または比色法で測定した。
 酸/塩基滴定実験の結果、バクテリア細胞の表面電荷はpH4付近に等電点を有し、pH<4領域でプラス電荷、pH>4領域でマイナス電荷を発生することが確認された。これらの表面電荷は主にカルボキシル基(COOH)の解離に起因し、脱プロトン化したカルボキシル基が溶液中の主要な陽イオン吸着サイトとして機能していることが示唆された。イオン吸着実験の結果、AlおよびFe(III)はpH<6領域でバクテリア表面への著しい吸着が認められ、溶液中でのスペシエーション状態から想定される陽性イオンの脱プロトンカルボキシル基への静電的結合によると解釈された。一方Siについては、pH<4領域でのみ若干の吸着が観察されることから、カルボキシル基OHとの配位子交換による結合が支配的であることが推察された。これらのイオン吸着実験の結果は酸/塩基滴定から得られたバクテリア細胞表面の電荷状態と調和的である。

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© 2003 日本鉱物科学会
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