日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K6-08
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ヒザラガイの成長に伴う磁鉄鉱の結晶構造の変化
*廣井 裕介沼子 千弥加藤 健一小藤 吉郎
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キーワード: ヒザラガイ, 磁鉄鉱
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抄録

ヒザラガイは磁鉄鉱(Fe3O4)を主成分とした歯を形成することで知られている。ヒザラガイの摂餌器官である歯舌には形成されてから成熟に至るまでの全ての成熟段階の歯舌が存在するため、生体鉱物化現象のメカニズムの研究の上でヒザラガイの歯は最適な研究材料のひとつである。これまで我々は、40個体のヒザラガイから摘出した歯舌を摘出し、さらに鉄を濃集した歯一つずつ摘出したものを成熟段階ごとに集めて粉砕し、実験室系の粉末X線回折測定とそれにつづくリートベルト解析を行うことにより、ヒザラガイの歯を構成する磁鉄鉱の結晶構造とその成熟過程に伴う変化を調べてきた。その結果、磁鉄鉱の格子定数とスピネル型構造のB siteに存在する鉄の占有率が成熟段階に伴って共に減少していく傾向が見られた。本研究では、より強度の強いX線源である放射光を利用し、一個体のヒザラガイから摘出した歯1個のみを利用することにより、ヒザラガイの個体差の影響を受けない粉末X線回折データを収集し、解析を行うことを試みた。また個体の年齢差や種差により歯の構成成分がどのような影響を受けるかも同時に検討を行った。
 試料としては、徳島県鳴門市の海岸から採集したヒザラガイ(体長2.40cm, 3.30cm, 4.55cm, 5.35cm, 6.00cm, 7.30cmの6個体)とヒメケハダヒザラガイ(体長2.90cm, 4.00cmの2個体)を用いた。これらの歯舌から摂餌による摩耗を受けていない成熟した歯を1つずつ摘出し、細いガラスの針の先端に接着させ、ゴニオメータヘッドに装着した。測定はSPring-8のBL02B2に既設の大型デバイ・シェラーカメラを用いて行い、Si(111)モノクロメータで単色化した0.5ÅのX線を500マイクロ程度に整形して試料に入射し、回折X線をイメージングプレートで記録することにより、粉末X線回折図形を得た。また測定データは名古屋大学工学研究科 坂田・高田研究室で開発のソフトウェアにより回折角と回折強度の1次元データに変換し、その後泉冨士夫氏のRIETAN-2000(1を用いてリートベルト解析を行った。
 解析の結果、磁鉄鉱がとるスピネル型構造のA siteの鉄占有率はすべてのヒザラガイでほぼ1.0をとり、値に変化は見られなかった。B siteの鉄占有率は、体長5.35cm以下ですべて0.87付近で一定値をとっていたのに対し、6.0cmでは0.90、7.30cmでは0.92と増加傾向を示した。また格子定数は6.0cmまではおよそ8.382の値をとり一定であったが、7.31cmでは8.377と減少していた。またヒメケハダヒザラガイについても、A siteの鉄占有率はほぼ1.0をとり、値に変化は見られなかった。B siteの鉄占有率については、2.90cmで0.860であったのに対し、4.00cmでは0.930という値をとった。格子定数についても8.382と8.381をとり、あまり変化は見られなかった。
 これらのことからA siteの鉄占有率は、体長の大きさや種の違いにかかわらずほぼ1.0の一定値をとることが明らかになった。またB siteの鉄占有率はヒザラガイの体長が6cmになるまで低いが、その後大きくなるにつれその値は増加することがわかった。この傾向はヒメケハダヒザラガイにも当てはまった。さらに格子定数は、6cmまでの個体であまり変化しないことがわかった。7cm以上の大きなヒザラガイ一個体では小さくなっていたが、ヒメケハダヒザラガイは大きさに関係なくあまり変化しなかったことから、大きさや種に関係なく、ほぼ一定値をとると考えられた。

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© 2003 日本鉱物科学会
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