日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K6-12
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オカメザサケイ酸体の微量元素分析
*芳賀 信彦木下 忠
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キーワード: ケイ酸体, ササ, 微量元素
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抄録

イネ科、カヤツリグサ科植物は他の植物に比べ Si を強く吸収し、葉身中の特定の細胞に蓄積し、植物ケイ酸体 (phytolith) と呼ばれるケイ酸質の固形物をつくる。機動細胞に形成されるイチョウ型(ファン型)のケイ酸体と短細胞に形成されるタケ型ケイ酸体は大型で形態も安定していて数も多い。これらのケイ酸体細胞は葉脈に沿って並び、極めて細長い葉身に機械的な強度を与えている。ケイ酸体は植物体の死後も分解せずに土壌中に残り、プラント・オパールとして考古学の分野で利用されている。植物と棲息環境(土壌)と微量元素の間には密接な関係があり、元素蓄積植物、指標植物の名があるように、植物の中には特定の元素を通常よりも多く蓄積するものがある。我々は植物葉身中に生成する固体物質に着目し、その鉱物学的特徴や含有する微量元素量の特殊性から土壌、地質環境のモニターや phytoremediation の可能性について興味を持っている。本研究では土壌的にも、分類的にも特殊性のないササ類のオカメザサ (Sibataea kumasca) を中心としてそのケイ酸体の鉱物学的特徴、化学的特徴を明らかにし、今後の研究の足場としたい。
 試料は兵庫県赤穂郡の植栽オカメザサの葉を使用した。葉を恒温槽で乾燥後粉末に破砕し粉末 X 線回折を行った。2θ = 22°付近を極大とするオパール特有の回折図形が得られ、他に双子葉植物に広く含まれる whewellite (CaC2O4・H2O) の明瞭なピークも認められた。ケイ酸体を単離するため 550 ℃で 30 分間電気炉による灰化を行い、超音波を照射し分離を行った。光学顕微鏡、SEM により詳しい形態観察を行った。
 EPMA (電子線マイクロアナラザ)によるケイ酸体の元素マッピングを行った結果 Si, O, K, Ca, Mg, Na, Zn, Cu, Mn, Fe, Al にコントラストが認められた。主要元素の Si, O は別として、K のみが 1 (oxide・wt%) 以上ふくまれ、他の微量元素は 1000 ppm のオーダーで含まれる。Mg, Zn, Cu, Mn, Fe, Al などは Si を置換できると考えられる元素であり、 K, Na など大きなイオンは構造の隙間、オパール粒子間の隙間、表面水素の置換などの形で含まれることが予想される。
 オカメザサ、ミヤコザサ、クマザサなどで微量元素の組み合わせは大きな違いはないが、予想以上に多くの微量元素が含まれることがわかり、土壌の特性(母岩地質、pH)、気候的特性(湿地、乾燥地、汽水湖など)により元素量が大きく異なる可能性が示唆された。イネ科、カヤツリグサ科の植物は上記のような広い環境に適応しているのでケイ酸体に、ある元素を異常に多く蓄積するような種類(属)が発見されることが期待される。

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© 2003 日本鉱物科学会
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