抄録
1.はじめに高温高圧実験においては、広範な温度圧力領域にわたる高精度な圧力スケールの使用が不可欠である。室温での圧力スケールについては、密度と体積弾性率の同時測定に基づく圧力の絶対測定により、従来のルビー蛍光法(Mao et al., 1986)による測定が極めて高精度で実際の圧力値を与えることが確認されている(Zha et al., 2000)。しかしながら、高温における圧力スケールについては、用いる圧力標準物質の種類により、また、圧力を評価する際の手法の違いにより、かなり異なったT-P-V状態方程式が提案されており、残念ながらいまだ最終的に確立された圧力スケールが得られていない。例えば、近年高温における圧力スケールとして良く用いられている金スケールについては、温度1500_から_2000K、圧力20_から_30GPaの範囲で、Jamieson et al.(1982), Anderson et al.(1989), Shim et al.(2002)によるスケール間で、最大3GPaもの誤差が存在する。我々は今回、高温における圧力スケールとして用いるために、MD法を用いた計算機シミュレーションにより、NaCl及びMg2SiO4リングウッダイトについて、常温常圧から高温高圧に至る高信頼度なT-P-V状態方程式を求めたので、その結果を報告する。2. MDシミュレーション結晶のポテンシャルエネルギーを、クーロン項、ファンデァワールス引力項、反発項から成る二体間相互作用の和で表した。加えて、酸素イオンについては、結晶内における多体相互作用を取り扱うためにbreathing shell model(Matsui, 1998; Matsui et al., 2000)を適用した。構造、物性への量子補正はMatsui(1989)により行なった。Mg2SiO4リングウッダイトについてのエネルギーパラメータは、Matsui(1999)を用いた。NaClについてのエネルギーパラメータは、NaClについての室温から融点付近(1073K)に至る熱膨張データ(Enck and Dommel, 1965)、圧力0_から_3.2 GPa, 温度298_から_773Kの範囲のピストンシリンダー装置による静水圧縮データ(Boehler and Kennedy, 1980)、及び、室温から800Kまでの弾性定数データ(Spetzler, 1972; Yamamoto et al., 1987)の全てを精度良く再現するとの条件を用いて経験的に求めた。3.結果と考察Mg2SiO4リングウッダイトについては、Katsura et al.(2004)による、高温におけるMgO とMg2SiO4リングウッダイトの温度_-_圧力_-_体積同時測定データに基づいて、今回求められたMg2SiO4リングウッダイト圧力スケールとMatsui et al.(2000)によるMgO圧力スケールを詳細に比較した。その結果、両スケールが与える圧力値が、温度1500_から_2000K,圧力18_から_23GPaの範囲に渡って、非常に良く一致する(平均の誤差0.1_から_0.2GPa)ことを見出した。MD計算が高温のシミュレーションに特に適した方法であること、及びMgO スケールとMg2SiO4リングウッダイトスケールが全く独立に求められたことを考慮すれば、今回の結果は高温における、MgO スケールとMg2SiO4リングウッダイトスケールの両者にかなりの高信頼性を保証するものであろう。続いて、NaClについても、今回MDを用いて求められた圧力スケールを、従来報告されているNaCl圧力スケール(Decker, 1971; Birch, 1986; Brown, 1999)による結果と詳細に比較した。