日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2004年度年会
セッションID: k06-18
会議情報
長野県地獄谷温泉の温泉沈積物
*芳賀 信彦萩原 友明土肥 輝美
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
はじめに・・・・温泉沈積物とは無機化学的に既存の岩石表面などに付着する温泉華などを指す。これらは温泉中に溶存しているイオンの種類、温度、圧力の急激な変化、pH、泉質などが要因になって、湧出後に析出するものであり、温泉の起源や、履歴を知るための研究材料として重要である。また、湧出後の温泉中に生息する微生物の作用によっても沈積物が生じる。微生物が関与して生ずる温泉沈積物を温泉バイオマットという。温泉バイオマットは地球史における生命誕生に至る化学進化、太古代∼原生代のシアノバクテリア、原始的藻類の地上進出の際の生息環境モデルを与える場として極めて重要であり、その解析も研究上大いに意義のあることである。この研究は上記に示した温泉沈積物の研究の一環として、長野県下高井郡の地獄谷温泉の沈積物について、化学的、鉱物学的特徴を明らかにし、そこに棲息する微生物との関連を明らかにすることを目的とした。試料・・・・温泉の分析表によれば泉質は食塩含有石膏性苦味泉で温度は70∼80℃とされている。横湯川沿いの源泉に白色沈積物を中央に、両サイドに緑色の温泉バイオマットがよく発達している部分があり、試料はそこから採取した。実測のpH は4.7 、水温は中央部55.2℃、両脇の緑色部分で51.2℃である。また支流部分の水温71.2℃の部分から硫黄芝を採取した。実験、議論・・・・粉末X線回折によると白色沈積物はほとんど非晶質であり、僅かにgypsumとhaliteのピークが認められた。これは泉質を反映していて、温泉から析出結晶化したものと考えられる。EPMA 分析によれば、 SiO2 (47%), Al2O3 (15%), CaO (10%), Fe2O3 (6%) , Na2O (2%), K2O (1%) が主成分である。成分から見ると珪華に近い。放射光蛍光X 線分析 では、微小成分としてMn, Cu, Zn, As それにL線の領域なのであまり鮮明ではないが希土類元素が検出された。とくにFe に伴ってAsが多いのが特徴的であり、その意味、意義を模索中である。AsのKΑ線蛍光XANESの測定によれば、As は5価であり、 その EXAFS 領域のスペクトルはenargite とよく似ており、As の配位構造の類似を示唆している。またこれは鬼首温泉のストロマトライト中のAs と同じ分析結果である。硫黄芝を乾燥後、粉末X線回折を行ったところ、斜方硫黄だけからなる回折図形が得られた。この硫黄は、白色沈積物にはSが僅かにしか含まれていないため、硫黄芝中のバクテリアにより生成されたものと考えられる。この硫黄芝を偏光顕微鏡で観察すると糸状の硫黄細菌に加えて光学的異方性のある微粒の結晶が散在しているのが認められた。さらにSEMで観察すると両錐型の差し渡し10 μm 程の結晶が確認でき、形状から単結晶であるかとがわかった。流水中央部の白色沈殿物は外見は白く見えるが、表面には長さ5∼10 μm の短冊状の緑色のシアノバクテリアの棲息が見られた。形状からクロオコックス科のシアノバクテリアと思われる。また両サイドの緑色バイオマットは白色沈殿物上に発達した長さ8 μm 程の葉巻型の細胞が糸状に連なったネンジュモ科のシアノバクテリアが絡みあった集合体であり、鮮やかな緑色を呈する。これら二種のシアノバクテリアは水温、水流速度、水量などに応じて棲み分けを行っていると考えられる。白色沈殿物本体も表面にさざ波状の模様が発達していて非常にもろい構造物である。この部分にもバクテリアが関与している可能性があるが、今回は確認できなかった。
著者関連情報
© 2004 日本鉱物科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top