抄録
脳血管障害患者において日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)の自立にどの程度のバランス能力が必要であるのかは定かではなく,臨床においてバランス能力の向上に対する目標値の設定が曖昧になっている.今回我々はADLの自立に必要なバランス能力を明らかにすることを目的に,回復期リハビリテーション病棟入院中の脳血管障害患者90例における「しているADL」とバランス能力の関係を調査した.その結果,食事,整容,椅子への移乗,トイレ動作,更衣,入浴動作の順でより高いバランス能力が要求されていた.各ADLにおいて非自立群の Functional Balance Scale(FBS)の得点は自立群に比べて有意に低値であり,ADL毎に自立が困難となるFBS得点の閾値が存在すると考えられた.また,FBSは椅子への移乗動作およびトイレ動作の自立度判定に有用であることが示唆された.その他のADLに関してはFBS得点のみで自立度を判断するのは適切でないと考えられた.